前稿(グローバル企業のCSR【前編】課題と次なる一手とは)では、グローバル企業の、社会的企業とのパートナーシップのあり方について紹介した。本稿では、「インパクト投資」によるパートナーシップに絞って考えていきたい。
「企業によるインパクト投資」が直面する5つの課題
読者の方は、すでに始まっているいくつかの企業インパクト投資の事例を思い浮かべられたかもしれない。ベネッセによるインパクト投資ファンド、三菱商事復興支援財団など、すでに先進的な各社が、競ってその取り組みを始めている領域であると言えるだろう。
世界においても、自然との協働する会社を後押しするパタゴニアの$20 Million & Change、ヘルスケア分野でのイノベーション創出を狙うGEのHealthymagination、ローカルビジネスを後押しするダノンのdanone.communitiesなど、各社による先進的なファンド事例がベンチマークされ始めている。
ここからは、もしあなたが、企業でインパクト投資を実践したい方であったと仮定して、思い悩むことになるかもしれない5つの点を紹介したい。
① CSRとしての「投資」は行えない。
企業CSRにおいて、NPOへの寄付を行っている企業はあっても、投資はまず聞かない。CSR部でいきなり「インパクト投資」の話を企画提案したとしても、それが「投資」であることの一点によって却下されてしまうかもしれない。またCSRで動かれている方々の中には、「投資」という言葉への警戒感を強く持たれている方も多くいるだろう。
② 「インパクト投資」は、事業部の投資基準にそぐわない。
CSR部で歓迎されなかったそのアイデアを、あなたが事業部に持ち寄ったとして。あなたはこう言われるかもしれない。ビジネスモデル確立に時間を要する、社会的企業を投資対象とする「インパクト投資」は、その内部収益率・回収期間において、他の案件に見劣りしてしまう可能性がある。
③ 社内を説得できるロジックがない。
CSRでもだめ。事業部でもだめ。途方に暮れたあなたは、いっそのこと、役員にそのアイデアをぶつけてみよう、と思い立つかもしれない。だが、あなたはその「インパクト投資」のアイデアに秘められた可能性を、役員の方に説明して説得することができるだろうか?
④ 「インパクト投資」が分かる人材・ノウハウがない。
もし役員の方への提案が幸運にも通り、社内でのインパクト投資ファンドの立ち上げをあなたが任されたとして。ファンドの設計から、インパクト投資特有の成果の測り方に至るまで。未知の領域での取り組みに、途方に暮れてしまうかもしれない。
⑤ 投資先へのアクセスがない。
お金はそろった。十分なリサーチと社内の巻き込みを経て、ファンドの骨格も出来てきた。さてどこに投資をしようか?あなたの頭の中に投資先候補は思い浮かぶだろうか?これは寄付ではない。投資だ。その投資に見合うだけの信用ある投資先を見つけなければいけない。
どうだっただろうか?おそらくすでに社内で立ち上げられた方々も同様の課題に直面されていたのかもしれない。どのように乗り越えたかは、当事者の方に聞くのが一番早いかもしれないが、ここでは少し視点を変えて、これらの課題を克服する一案をご紹介していきたいと思う。
「企業ベンチャーフィランソロピー」が5つの課題を解決する
インパクト投資が純粋な直接投資であるのに対して、ベンチャーフィランソロピーは、「寄付」で集めたお金を、「投資」にて資金提供する手法のことだ。「投資」と「寄付」の良い点を持ち寄った手法といえる。この方法をとった場合、先ほどの5つの課題をどのように克服し、「機会」へと変えることできるだろうか?
① CSRからのお金の出し方は、「寄付」である。
ベンチャーフィランソロピーの場合、原資は「投資」として拠出するわけではなく、「寄付」だ。これまでの方法と同じ予算取りができるはずだ。培ってきた寄付のノウハウを、新しい方法で活かす機会、ということができるだろう。
② 投資先への資金提供は、事業部にとっての「R&D」だ。
ベンチャーフィランソロピーとして、投資先への資金提供は、将来的な事業提携を強く意識したものとなる。ゼロから自社事業を行う時間と手間を省き、投資先のノウハウの獲得と提携を期待できるため、一種の「R&D」であるということができるだろう。
③ 十年後、その投資先は「金のなる木」となる。
その投資が必ず成功するとは限らない。しかし、「社会的価値」というフィルターから切り出されたその投資先は、十年後の新しいマーケットにおける頼もしい「金のなる木」となるかもしれない。
④ 「インパクト投資家」との協働からノウハウを学ぶ。
インパクト投資に特化してその実践を重ねているインパクト投資家。インパクト投資家は、分野特有のソーシング、デューデリジェンス、投資回収の経験とノウハウを持っている。まずインパクト投資家にお金を出してみることで、そのノウハウを学ぶことができるだろう。
⑤ 通常投資より早く案件候補が集まる。
世界の社会的企業は、その選択肢としてグローバル企業との提携を考えている場合が多い。ミッションを是としたソーシングには、通常投資より早く多くの投資先候補が集まることが期待できるだろう。
まとめ
企業による「インパクト投資」の直接投資は、非常にハードルが高い。どの部署が主導するのか、投資先は誰が見つけるのかなど、社内を説得した上で実際にファンドを成功させることはなかなか難儀であろう。
「企業ベンチャーフィランソロピー」の場合。寄付として出している手前、最初の敷居が低い。手元に資金を返さないといけない義務は生じない。また投資先と緊張感のある関係性を築き、CSRで築いたネットワークを、有機的に事業部に繋げていける仕組みとなるのではないだろうか?
この分野は世界でもまだ始まったばかり。この記事を読んで、「何かできるかもしれない」と感じ取ってくださった方は、ぜひImpact Comassに意見をお寄せください!
(冒頭写真:Photo by Chris Potter)
この記事の執筆者
- Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。
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