インパクト投資が古ぼけ始める ー 目的化するインパクト投資

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Impact HUB Tokyoでは今年も25名の個人・研究者・企業・起業家の方々と共に、インパクト投資の世界の祭典とも言える、Social Capital Marketsというカンファレンスに行ってきた。

私たちは毎年、こうやってチームを作って行ってきて、学んだことをシェアするのだが、今年の学びは大きかった。なぜなら、インパクト投資の本流と言える場で、私たちが目にしたものは、インパクト投資の興亡と衰退だったから。

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(Photo: Impact HUB Tokyo)


25人の参加者が日本から。投資家目線を感じに。

 衰退、と言うと、あまりに衝撃的な単語であるが故に、多くの方が異議を唱えたりするかもしれない。だが、現実としてインパクト投資の現場では全体的に毎年同じトピックが語られ、イノベーティブなアイデアやアクションが少なくなってきている事実が、数年前から見え始めている。

もうイノベーションが起きにくい状態になりつつあるのかもしれない。前までは「新しい金融のあり方」そして、「新しいリーダーシップのあり方」として、金融業界にいた人たちが自分たちを投影する先として、こぞってインパクト投資という姿を模索しはじめたものだ。

だが、今回の日本の参加者たちにも聞くと、「世界はこのくらいか、という感じで、現実が見えた」や「現場にいる自分達の方が投資家よりも見えているものがある」などの意見も多かった。

『インパクト投資』の主流化が始まる

今では「SROI」(社会的投資におけるリターン)の計算式や考え方、投資スタイル、ファイナンス的な工夫など、以前は目新しい話題だったが、昨年から今年にかけて劇的な変化やイノベーションは起こらなかったようだ。

だが、奇しくもそのタイミングで、多くの金融機関が着手しはじめ、「メインストリーム化」が始まった。これに関して今年は衝撃的な事件があった。Global Impact Investing Network (GIIN)が、東アフリカと東アジアにおける、インパクト投資ファンドの数々の業績レポートを発表し、インパクト投資がうまく行っていると宣言したのだ。

途上国インパクト投資が好調のため参入の呼び水に

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このレポートによるとアフリカでは93億ドル($9.3 billion)、1000件の投資、155のインパクト投資家が関わっており、203のインパクト投資のビークルが存在しているという。

また、東アジア地域では、2004年から2014年までの10年間で89億ドル($8.9 billion)が投資された。その調査の結果、これらの投資が「アウトパフォーム」している(通常の投資の平均値よりも良い金銭的リターンが出ている)という。

ほかに、従来伝統的で保守的なはずのアセットマネジメント、金融機関が続々とインパクト投資のイニシアティブを立ち上げているのも事実。(BlackRock やBain Capitalなど)そして、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の動きも本格化し、BloombergやGoldman Sachs、JP Morgan、 Morgan Stanley、 Merrill Lynch、 BNY Mellonが動き出し、インパクト投資は確実に金融商品のポートフォリオの一つになったのだ。

金額は増えてもリスクはとれないインパクト投資の実態

だが、SOCAPではこの事態を深刻に見た。いや、見ざるを得なかった。金融業界の本格参入があっても、リスクの取り方や手法に全く変化がない。

インパクト投資は、通常の金融では手のとどかないところへ手を届かせる、そのための役割を担おう、という心意気から始まったにもかかわらず、結局のところ、なにも変化がなかったのだ。

その証拠に「パイオニア・ギャップ」と呼ばれる超アーリーステージへの投資が少ない問題が解決されていないことが指摘された。この「誰もが出したがらない層」への投資促進が期待されていたが、金額だけ増えて、なにも変化が起きていない。

「リスクをとれないインパクト投資」の価値はあるのか?

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(Photo: John Morgan / Monopoly)

現在、インパクト投資ファンドが出す先の90%以上が、従来型ベンチャーキャピタルがすでに投資している先であることが、指摘された。社会的課題に取り組む事業はアーリーステージやアイデアレベルの段階で誰も「お金になりそうになく」支えて来なかったがゆえに、どの国でも事業が育っていない。だがこの状況改善にインパクト投資が役立っているわけではないらしい。

この事実が明らかになると、SOCAPに毎年集まる自称インパクト投資家たちは、自分たちの本当にやっていることは何かを議論しはじめた。SOCAPには2700人も参加者が集まっため、従来型投資を志向し保守的なインパクト投資をすることだけを考える人も多かったが、一方で、この問題意識とフラストレーションがシェアされ、なんらかの回答を見出そうと話す人たちも多かった。

SOCAPが面白いのは、誰かが解答を提供するわけではないこと。問題意識を誰かに共有すると「そうそう!私も疑問に思っていたのよ」と違う国の違う状況を目の当たりにする人から反応がある。この時初めて「私たちの考えていたことは間違いではなかったな」と認識し、後押しされ、問題解決へさらに取り組むアクセルを踏むのだ。

「インパクト投資のためのインパクト投資」は要らない

インパクト投資はあくまでツールであり、目的ではない。SOCAP中にこんな言葉を聞いた。「インパクト投資が目的化しつつある。インパクト投資をやりたいがために、インパクト投資をやっている。そしたら、それはあくまでマスターベーションにすぎない」本当に、インパクト投資が適切な手段である場合に使えばいいのだ。

日本においても、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の話題の中で、同じような光景を目にすることがある。SIBをやりたいがためにプロジェクトを探している姿を今年になってからよく見かける。

本来なら、事業者・起業家、事業の受益者たちのことを考えた時に、最も納得が行く手法がSIBであるなら、それを追求すべき。だがそうでなければ、もっと他の手法があるかもしれないはずだ。

現場や受益者たちのこととはかけ離れて、単に「お金の出し手」側が試したい新しいツールであるだけ、または厳しく言えばお金の出し手側が「新しいおもちゃ」を手にしたようなケースも少なくない。

これからの「ソーシャル」や「インパクト」の分野が、もっと本当の意味での深い議論に突入することを、個人的に望んでいる。そうすれば、手段が目的化することもないだろう。

(冒頭写真 Photo by  epSos .de

この記事の執筆者

槌屋 詩野Impact HUB Tokyo共同創業者Twitter:@shinokko
2012年よりインパクトを作り出す人たちの拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラムを設計、海外のプログラムのローカライゼーション・アドバイザー、企業の社内起業家育成スキームの設計、また、企業ベンチャーフィランソロピー分野で投資アドバイザーとして活動。

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