社会的企業をローカライズするとは? Teach For Japanの事例

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 海外で実績がある社会的企業の事業モデルに共感し、日本でもやってみようと動き出す。私には、そんな動きが、近年広がっているように見えている。Human Rights Watch(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)や、AMNESTY(アムネスティ)ASHOKA(アショカ)などの団体が知られているが、2010年の冬に発足した、認定NPO法人「Teach For Japan(以下、TFJ)」も、そんな動きの中から生まれた事業のひとつだ。

 私は、TFJの活動に学生教師として、立ち上げ期の2011年冬から2012年末まで参画した。オリジナルのモデルは、1990年にアメリカで始まったTeach For America(以下、TFA)の事業だ。全米の優秀な大学生を教師として採用・育成し、教育困難校へ派遣するというこの事業は、「貧困地域での教育格差の是正」と「次世代の教育を担う人材の育成」の2つを軸に、20年以上にわたってアメリカの教育界に大きな実績を残してきた。

 実際、教育現場での生徒の学力向上のみならず、プログラムを卒業した教師たちの教育分野での活躍など、このモデルは中長期にわたって大きなインパクトを生み出してきた。それがいよいよ日本でも展開されるということで、自分も、それから日本の人々も、TFJに大きな期待を持っていた頃だった。

日本の教育システムが抱える問題は、アメリカとは異なる

 しかし、外から見える以上に、その道のりは険しいものだった、と思う。国が変わると事業を取り巻くあらゆる条件が一変した。世界のどこかで成功したモデルを自国でも同じように展開するのは、想像以上に難しい。TFJ代表の松田も、ハーバード教育大学院で執筆した修士論文でその困難性を指摘していた。
 
 国内におけるソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)が生まれる土壌の違い、教員採用試験の存在、学生を取り巻く新卒一括採用制度。TFAのモデルをどうやって国内の文脈に合わせてローカライズしていくのか。課題山積の中で、TFJがそのビジョンを達成するためにどう事業モデルを見直し、ミッションを再定義していったのかについて迫りたい。

 TFJがローカライズにおいてまず直面したのは、アメリカと日本での、教育システムの違い。アメリカと比較すると、日本の公教育制度は、実は採用、育成の面でかなり上手く機能していた。教員採用試験という仕組みがあるからこそ、教員の質もある程度、担保されている。

 また、教師になりたい人がまったくいない、という状況もあまり起こっておらず、さらに教員になれるのは試験をパスした人だけなので(これはメリット・デメリット両面あるのだが)免許を持たなければ派遣教員として教壇に立つことはできない。

 アメリカのように英語すら通じない地域で、想像を絶するような崩壊した教室環境で、教師になりたい人がまったくいない、とか、それがゆえに授業が実施されないというような、絶望的な状況ではない。 

 そのため、アメリカのTFAモデルのように、一度に数千人の教師を採用・育成・派遣する、というモデルは成り立たない。TFAが、初回派遣で500人という規模で派遣したのに対して、TFJの場合11人というごく限られた規模での実施となった。

「セオリー・オブ・チェンジ」の再考

 2013年に教師派遣がスタートするまで、TFJは都内の生活保護層の家庭の子供達への学習支援事業を行っていた。私が参加していたプログラムも、こちらである。この事業を行いながら「ビジョンを達成するために、TFJの活動が本当に必要とされ、フォーカスしなければならないのは、どこなのか」の再定義を進めていた。つまり、セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)の再考である。

 英語にすると「セオリー」と仰々しくなってしまうが、要は、自分たちのビジョンを達成するために何が必要で、何が問題となっているかを、再定義する頭の整理のこと、と私は理解している。

 「すべての子どもが素晴らしい教育を受けることができる社会の実現」というビジョンを達成するには、何をすることが必要で、それをするために、何が今問題になっているか、を明らかにする、ということだった。

 貧困世帯はどこに、どれくらいの規模で存在しているのか。その教育現場では何が問題となっているのか。そもそもアプローチ対象は本当に貧困世帯なのか。TFJが国内の教育を変える存在として、社会から求められている役割は何なのか。TFJだからこそ生み出せる変革とはなにか。日々、マネジメント層はブレインストーミングを続けていた記憶がある。

ビジョン達成のために、オリジナルモデルに固執しない度胸

 海外で既に展開されている事業モデルを、国内に持ち込んでローカライズし、スケールさせていく上でのヒントは、オリジナルのモデルに固執しない度胸なのではないかと思う。TFJは、ある限定された地域で求められるオリジナルの事業モデルをそのまま展開するのではなく、日本という国がもつ教育システムのなかで求められる事業とは何なのかを問い続け、自らのビジョンをぶらさずに、必要に応じてミッションを柔軟に見直したのである。

 私がTFJとの関わりを終えてから3年ほど経つが、当時私が参画していた貧困地域での学習支援プログラムは、現在NPO法人Leaning for Allという別団体に分かれ、姉妹団体のような関係で事業を実施している。

 そしてTFJは全国への教師派遣事業を、「貧困地域での教育格差是正」という軸だけでなく、「教育現場における多様性の担保」という軸も取り入れて国内でスケールさせているように見える。派遣教員数は徐々にではあるが、プログラム毎に増加している。

 まだまだ受け入れ校数も、派遣教員数も限られてい入るが、課題が大きければ大きいほど、その解決にも時間はかかるものだ。「日本の教育とはどうあるべきか」の、べき論を語る一方で、その実現に向けて本気で立ち向かうDoer(実行者)がなかなか出てこなかった教育の場で、いままさに奮闘している彼らを応援したい。

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