行き詰まるグローバル・ネットワーク、その苦悩と舞台裏

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 先月とある機会があり、世界中の「チェンジメイカー」的な活動をしている人たちが集まる場、NELISに参加することができた。日本からも多々参加があり、とても有意義で面白い時間を過ごすことができた。

 その議論の中で「グローバルな、チェンジメイカーのための、ネットワーク」というものの定義について、様々な議論が行われ、その過程で、Impact HUB Tokyo というものを経営している身からも普段考えていたことを一生懸命伝えることができた。

 似たような経験の持ち主たちは、「グローバル・ネットワーク」の価値とは「自分と同じような考えの人に、世界のどこかで出会えることだ」と語った。ローカルの活動がなかなか認めてもらえない時、ローカルでは会うことができない、苦悩を分かり合える友が世界のどこかにいて、同じ挑戦をしている事実に勇気づけられるものだ。

 

現在のグローバル・ネットワークの悩み

 私もその「勇気づけ」が一つの経緯となり、Impact HUBのネットワークに興味を持った。私たちがImpact HUB のグローバル・ネットワークに参加しようとしていた2012年、私は他のHUBの創業者と話をしていた。彼はインド系イギリス人だった。

 「今のImpact HUBはとても西洋的なカルチャーをベースにしており、欧米が中心だ。もし私たちがグローバルな文明というものを志向するならば、東京で、日本の思想を持つ、あなた方の活動はこのグローバル・ネットワークにとって多大な価値を持つ」

 この言葉は、私に深い示唆を与え、日本という地でグローバル・ネットワークの一端を担うことに対して、意味を与えてくれた。「そうか、私たちは多様性をネットワークの中に植えるための種なのだ」と気づいたのだ。

 

グローバル・ネットワークは思想のバランスを持つべき

 それ以来、私は今でも様々なグローバルな市民活動やムーブメントが起きる時に、それが西洋的すぎるのであればアジアの地域で、アジア的すぎるのであれば西洋文化の地域で、ローカライズされることの重要性を感じている。
 
 それは私のImpact HUB Tokyoを運営・経営した経験からによるが、真摯にローカライゼーションに向き合い経営を行うと、それはローカライゼーションという域を超え、土着した思想との交わり合いになり、深いレベルへ落ちていくからだ。土着との融合、そして、それがまた他の土地へと伝播する。そのプロセスこそ、世界がシェアし、学びあうものだからだ。

 グローバル・ネットワーク、グローバルなムーブメントに対しては、安易に「グローバルの人たちってこういうことしてるんだ、ふうん」と傍観する、または、「へえ、グローバルの動きってすごい」と追随する、ということもできるだろう。

 だが、私たちが真摯にローカルの現実と向き合うと、そのような二枚舌は通用しなくなった。日本において「HUBとは何か」を深め、HUBのメンバーと対峙し、深く話し、その人生が絡み合っていくうちに、自分たちの思想が育まれる。それが時としてグローバル全体の動きと噛み合わなければ、質問を突きつける側に回るようになる。

 

ローカルと対立するグローバル・ネットワーク

 さまざまな質問を浴びせ、浴びせられ、を経て、私たちは何が起こっているか次第にわかるようになった。それについて、少し開示したいと思う(が、さまざまな反論もいただくかもしれないのでそれも承知の上)。

 グローバルのムーブメントは、TEDを皮切りとして、Room to ReadアキュメンチャプターアショカCode for 〜〜Teach for 〜〜、などが存在する。あげはじめたらキリがないほど存在している。2012年ごろを境に、いずれのムーブメントもフランチャイズ形式やヘッドクオーター拡散型など様々な権力構造のバリエーションを持って、世界中で同時多発的に発生し、拡大していった。

 それがローカルの思想と対立することはよくあることだ。TEDxを地方で行うボランティアチームがTEDのルールや思想と衝突する話はよく聞く話だ。ロゴ、ライセンス、フランチャイズシステムのルール、契約・・・。どこも同じような現象が起き始めている様子だ。

 

世界的に同時進行で進む、中央集権化とブランド化

 これらの何が問題かというと、全ては「中央集権化」と「ブランド化」の動きにある、ということが、最近になって私の中で腹落ちした。実は、本当に長い間、しばらく自分たちが違和感を持っているのがなぜなのか、言語化が難しかったのだ。

 一概には言い切れないが、「チェンジメイカー云々」のネットワークは、グローバルでビジネスとして成立するモデルはかなりハードルが高い。そのため、スポンサーシップを取りに行くことが多く、その際には強固なブランドを対外的に見せなければならなくなる。

 グローバルネットワークは、もう「グローバル」というだけでは価値が高くないので、比較され、吟味される、という状態に陥る。そうすると、競争は確実に意識として存在し、各ネットワークのドライブになるようになる。

 

ブランドを強めなければ、のプレッシャーとガバナンス

 強固なグローバル・「ブランド」を証明するために、統一感、そして、規律ある動きが必要となり、数値やデータが必要となってくる。そのため、データ取得が目的化する行為が増え、「中央」が存在し始める。そして「中央」組織に人件費が必要となる。

 それぞれのネットワークで表れ方は異なるように思うが、目標達成ノルマが課されるようになったり、ブランド使用の厳密なルールなどが発生したり、各ネットワークのローカルチームは、その対応に苦悩する。

 最近、「世界をまたにかける社会的企業に一番適したグローバル・ガバナンスとは」という言葉が聞かれ始めた。もし興味がある方は、下記のページでご紹介しているビデオをごらんになって頂きたい。Impact HUBグローバルの「ガバナンス」と、One World.netのそれとが紹介されているウェビナーだ。私はこれに異議を唱えるわけではなく、ここで一つの現象として紹介したい。

 参照URL: http://kingscross.impacthub.net/2015/10/19/global-governance/
 ”Stories: Global Governance”

 

自由+カオス+イノベーションは存続可能なモデルとなれるか

 私は、予算、人件費、営業、目標達成、ライセンス、フランチャイズ、ヘッドクオーターなどの言葉が出てくると、要注意するようになってしまった。そして、ガバナンス。何を「統治(Govern)」するのかを要注意して聞かねばならない。

 ネットワークは自由であり多様性があることで、ローカル・グローバルの両方においてイノベーションを生むものになる。だが、気をつけないとあっという間にその文化は死んでしまう。ビジネス、外部プレッシャー、ミッションの統一(Alignment)などを議論しているうちに、気がつくとイノベーションが起きにくい体質になる病にかかるのだ。

 多くのグローバル・ネットワークは、ユートピアの妄想から始まった。皆の憧れや理想を、自由で効率的でエキサイティングなやり方で、どんどん実現し広げていこう。そして、シェアしよう。そして、カオスを作り出し、その中からコラボレーションを産もう。それこそがイノベーションだ!と私たちは熱狂的に興奮していたはずだ。

 だが、そのユートピアの存続が難しくなっていった時、「勝つか、負けるか」の二元論に依存するビジネスカルチャーが流入してきた。それまで調和を大事にしあっていた「チェンジメイカー云々」の世界で、競争的な市場や思惑が加速しはじめた。

 悲しいことだが、「チェンジメイカー」「社会起業家」「イノベーター」関連のグローバルネットワークは、お互いにパイを狙い合う「競争」に突入してしまったのではないだろうか。

 

アジア的思想が「変化そのもの」を生み出すはず

 だが、これから少しずつそれも変わろうとしている。体感的には、その変化は確実にアジア的伝統様式に基づいた思想を共有する人たちからの質問や問いかけがきっかけとなり、生まれているように思う。(ここでは「アジア人」を指すわけではない)
 
 私たちは「世界的な変化の流れを追う」というフォロワーとして、グローバル・ネットワークに所属するのではない。私たち自身が「世界的な変化そのものになる」ためにあるのだ。

 ガンジーの言葉を何度も私は思い出す。「Be the change you want to see in the world.(あなたが世界に見たいと思える変化そのものになりなさい)」この言葉を真剣に考え向き合い、ローカルの場で変化を作り出そうとすると、グローバル・ネットワークは「単なるネットワークのためのネットワーク」を超えて、文明を作り出す可能性を秘めている。それが起き得るのは、文化を交錯する思想の共有があってこそ。

 既存のグローバル・ネットワークたちは、今チャレンジの時期にいる。これからが正念場だ。つまらない大組織になりさがってしまうか、または、可能性を秘めた文明となるかはこれから決まっていく。これからが最も面白いイノベーションが起き始める時期となるだろう。ぜひ、観察して、見守り、支援していっていただきたい。

冒頭写真:Image via Alexander Kaiser, pooliestudios.com

この記事の執筆者

槌屋 詩野Impact HUB Tokyo共同創業者Twitter:@shinokko
2012年よりインパクトを作り出す人たちの拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラムを設計、海外のプログラムのローカライゼーション・アドバイザー、企業の社内起業家育成スキームの設計、また、企業ベンチャーフィランソロピー分野で投資アドバイザーとして活動。

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