インパクト投資から組織開発まで。新年を迎えた起業家が読むべきSSIR記事10選

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 2016年を迎え、意気込み新たに新年の活動を始める季節。本記事では、社会的インパクトに関する基本知識を学んで、今年新たな挑戦を始めようと考えているあなたに、オススメの記事を紹介しよう。

 「社会起業家のバイブル」とまで言われる「スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー(Stanford Social Innovation Review)」(以下SSIR)の記事から、SOCAP(Social Capital Markets)の運営チームが必読記事として挙げた10本の記事を紹介します。現在では定番となったコンセプトから最新トレンドに至るまでを時系列で一挙ご紹介します。

参考URL: ’10 SSIR Articles Every SOCAP Attendee Should Read’(「全てのSOCAP参加者が読むべきSSIRの記事10選」) (SOCAPとは:毎年米国サンフランシスコで開催される、世界最大の社会的インパクト投資に関するカンファレンス。Impact HUB Tokyoからも日本チームを結成して送り込んでいます!SOCAP体験記はこちらから!)

 

(1) “Social Entrepreneurship: The Case for Definition” 「ソーシャル・アントレプレナーシップの定義とは?」(2007年春)

 8年前の記事でありながら、依然としてSSIRの人気記事にランクインしている記事だそうだ。

 社会起業の動きを、企業や行政などのメインストリームが取り上げるようになってから久しいが、今だからこそ、「社会的起業」とは何なのか、と言う原点に回帰してみよう。

 昨今では、社会起業のビジネスと既存のビジネスと何が違うのか、そもそも区別して特別扱いする必要があるのか、という議論が噴出する時代に。その疑問にオリジナルの考え方をベースに答えてくれるのがこの記事。

 本記事の内容はソーシャル・アントレプレナーシップについてまとめられた、こちらの本(”Getting Beyond Better: How Social Entrepreneurship Works”)でも整理してまとめられている。

 企業内起業家で、「ソーシャル・イノベーション」と呼ばれる分野で新規事業をおこそうとする人が、避けては通れない問いが「社会的起業とは結局何なのか?」だろう。だが、それの問いに答えを出すには自分なりに自分の言葉で説明できることが必要。社内のステイクホルダーの説得のために、自分の答えを出したい方には是非よんでもらいたい記事だ。

(2) “Collective Impact”「コレクティブ・インパクト」(2011年冬)

 「コレクティブ・インパクト」とは、社会的課題に対し、一つの組織、一人の力で解決しようとするのではなく、横断的に企業・行政・NPOなどの様々なアクターが、その強みを持ち寄り、大きなインパクトを目指すコンセプトのこと。今や、日本でも次第に巷で耳にするようになった単語ですが、そのムーブメントの発信源は本記事だった。

 一つの組織がスケール・アウトすることのみによってでしか、インパクトを増やせないことに、限界を感じていた人たちが多いなか、この記事やムーブメントのおかげで、パートナーとのコラボレーションの重要性が最重視されるようになったものだ。

 自分たちの組織の生み出すインパクトの大きさに、改めて立ち返って考える起業家や企業の方々に、是非読んでいただきたい内容だ。

(3) “The Role of Brand in the Nonprofit Sector”「 非営利セクターにおける、ブランディングの役割」(2012年春)  

 これまで、非営利団体のブランディング戦略というものは、「寄付をもらうために必要で」「ファンドレイジングのためだけに存在」するような、狭くて限定的に捉えられてきていた。  

 だが、上記の(2)記事のようなムーブメントが現れたことで、セクター間を超えたコラボレーションが加速し、状況が変わる。非営利団体は、寄付者だけをターゲットにしたブランディングではなく、より包括的に、コラボレーションのパートナーたちにもアピールできるようなブランディング戦略が必要になっている。  

 非営利団体が自らのミッションを実現していくために必要な資源(リソース)は、自分たちから必死に取りに行くのではなく、相手側から自然に集まってくるような仕組みを作って行くのが、今の時代の非営利団体。新しい時代にフィットする経営を考える非営利団体CEOやファンドレイジング担当者には必読の記事だ。

(4) “In Search of the Hybrid Ideal” 「理想的なハイブリッド組織を模索して」(2012年夏)  

 近年、世界の社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)のなかには、営利の法人形態と非営利の法人形態を併せ持つ「ハイブリッド組織」が、当然のように現れるようになってきた。  

 組織の事業、金銭的な持続可能性を確保しつつ、社会課題に取り組む、と言う難題にチャレンジしている社会起業家たち。アメリカで過去20年にわたり、そうした社会起業家たちを支援してきた「Echoing Green」がその実態に迫るレポートを発表し、「ハイブリッド」のコンセプトを打ち出したのが本記事だ。  

 日本では、まだまだ事例が少ない「ハイブリッド」。事業は軌道に乗ってきて、組織内に営利事業と非営利事業が混在しはじめて、交通整理が必要と感じている社会起業や、第二創業期の起業家・実業家にこそ読んでもらいたい。

(5)”When Can Impact Investing Create Real Impact?” 「インパクト投資はいつ本当のインパクトを生み出せるのか?」(2013年秋)  

 「インパクト投資」が話題になるにつれ、大手金融機関や大手企業が通常の投資とさほど変わらない内容の投資も「インパクト投資」と呼ぶようになってきたことから、「インパクト投資は本当にインパクトを生んでいるか?」という疑問を投げかける声が挙がるようになった。  

 依然として、まだ数が少ないインパクト投資の成功事例。その現状を踏まえて、私たちはどのようにインパクト投資に取り組むべきか、と言う問題提起を本記事が世界中に投げかけ、反響を呼んだのです。そのため、本記事に寄せられたコメントの数々も大変興味深いものとなっているので、合わせて読んでいただきたい。  

 近年、加熱したインパクト投資の動きを、一歩引いて、俯瞰して見てみたい方や、改めてインパクト投資の目的を再考したいと考えている投資家側の方々には是非お勧めだ。

(6)”The Rise of Gender Capitalism”「ジェンダー資本主義の勃興」(2014年夏)  

 最近の研究から、ジェンダーの多様性がある組織は高いパフォーマンスを挙げることが明らかになってきている。「ジェンダーの平等」という理念を唱えるだけではなく、いかに自分の組織でジェンダーの多様性を実現していくかを、柔軟なフレームワークを元に提示したのが本記事。  

 社会起業家に限らず、組織作りや再編のアイデアが必要と痛感する経営者の方々に、ダイバーシティという視点から採用とリテンションを見つめ直す機会を提供する記事だ。

(7)”The Dawn of System Leadership”「システム・リーダーシップの夜明け」(2015年冬)  

 「学習する組織」などの著書で知られるピーター・センゲ。ソーシャル・イノベーターに向けて、「コレクティブ・アクション」(上記の(2)記事参照)を生むために、必要とされるリーダーシップのあり方について説いたのが本記事。  

 「コレクティブ・アクション」が必要とは理解していても、マルチセクターでの対話と協働には、組織風土の違い、使う言語やビジネス感覚、スピード感まで多くの違いと摩擦がつきもの。  

 相手にだけ変化を求めるのではなく、いかに自分たち自身の認識を変化させ、コラボレーションに取り組んでいくかが問われている。「コレクティブ・インパクト」を理論だけでなく実践したいイノベーターの必読記事。

(8) “Disruption for Good”「社会貢献のための創造的破壊」(2015年春) 

 テクノロジーの力が、ファンドレイジングやインパクト評価の世界を一変させる可能性は疑いようがないのではないでしょうか? 「Giving2.0」の著者が、テクノロジーがいかに伝統的なフィランソロピーを変え、より合理的・効果的な、透明性の高い、民主的なコラボレーションを生むかを説く記事だ。  

 クラウドファンディング、オンライン署名などを思い浮かべて考えて欲しい。だが、それら個々の事象に注目するだけでなく、本質的にどのような地殻変動が起きているのかを考えなくてはならない。  

 今後、フィランソロフィーやファンドレイジングに関係するプラットフォーム作りを主導する中間支援組織やインキュベーターに求められる洞察が詰まった内容だ。

(9)”The Promise of Lean Experimentation”「 リーンな仮説検証の鉄則」(2015年夏)  

 テック・スタートアップの文脈で、一大トレンドとなってきた「リーンスタートアップ」の考え方。そのメソッドをソーシャル・イノベーションの文脈にいかに応用できるかを説明する記事だ。  

 「社会的起業は、受益者からお金を取りにくいため、軌道に乗るまでに時間がかかる。」というのがこれまでの常識。本記事は、その固定概念を打ち破り、社会的起業でも同様にリーンな仮説検証とスピード感が必要だと教えてくれる。  

 今まさに起業して事業開発・サービス開発に取り組んでいる起業家の方々に是非オススメしたい。その事業の検証や事業構築に必要な視点、プロセスが分かるはずだ。

(10)”The Power of Lean Data”「リーン・データの力」(2016年冬)  

 SSIRの最新号で紹介された本記事。ソーシャル・イノベーションの文脈における二つの原則として、「リーンな仮説検証」と「データに基づいたインパクト測定」を提示した。インパクト投資家Acumenディレクターのサーシャなどが中心となって、いかにお金をかけずに質の高いデータをとり、戦略的な意思決定に活かせるかを示している。  

 投資家やドナーへのインパクトレポートにて、できるだけ効果的な数字とデータを提示したいと考えている社会的起業家の方々を対象にしている。リーン・データの視点で自身の事業検証を行うと、また違った角度からインパクト評価が行えるだろう。

まとめ    

 社会起業家の定義、インパクトやリーダーシップのあり方といったベーシックなテーマから、リーンデータ、ジェンダー、テクノロジーといった新しいトピックに至るまで幅広く取り上げられていたかと思います。  

 すでに事業に取り組まれている方々ほど、立ち止まって自身の事業を振り返る時間をなかなか取れないものかと思います。  本記事で取り上げたSSIRの記事は、どの内容も事業展開の振り返りに直結する内容ばかり。気になった記事について目を通してみると、2016年の飛躍につながる発見が見つかるかもしれません。

(冒頭写真:Photo by https://flic.kr/p/afLbAL)

この記事の執筆者

山口 洋一郎
Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。

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