いま話題のインパクト投資!これだけは読んでおきたい海外レポート6選をご紹介

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 近年日本でも多く議論をされる「インパクト投資」。変化が早いこの領域において全体像を網羅する教科書は存在しない。あったとしても、出版される頃には情報が古くなっているだろう。

 そんな中でインパクト投資のトレンドを形作ってきたのは、シンクタンクや金融機関が競って発行してきた「レポート」。レポートでは、それぞれの実践やリサーチから得られたインサイトが提示されている。ここでは過去5年間のインパクト投資のトレンドを形作ってきたレポート6選を、厳選して紹介していきたい。

①インパクト投資の基本概念を知るならこのレポート

Monitor Institute “Investing for Social & Environmental Impact ~A Design for Catalyzing an Emerging Industry~” (2009)

 1つ目のレポートは2009年にモニター・インスティチュート(Monitor Institute)が発表したものだ。「インパクト投資」という言葉がまだ真新しかった当時、縦軸に財務リターン、横軸に社会的リターンを持つ上記の図式を提示して、インパクト投資の基本概念を説明したため、このマッピングは今でも基本概念として多く用いられるフレームワークとなっている。

Monitor Institute "Investing for Social & Environmental Impact ~A Design for Catalyzing an Emerging Industry~” (2009) より転載

Monitor Institute “Investing for Social & Environmental Impact ~A Design for Catalyzing an Emerging Industry~” (2009) より転載


②大手金融機関が参入するきっかけとなった、JPモルガンのレポート

JP Morgan ”Impact Investments ~An emerging asset class~” (2010)  

 2つ目のレポートはJPモルガンが2010年に発表した「Impact Investments 〜An emerging asset class〜(『インパクト投資〜新しいアセットクラスの出現〜』)」だ。インパクト投資の背景を振り返る際に、必ずといってよいほど言及されるのがこのレポートだ。

 このレポートの骨子は、メインストリームの金融機関にとって、インパクト投資がどのようなビジネスチャンスであるかを分かりやすく提示したことに尽きる。それは、インパクト投資が「新しいアセットクラス(New Asset Class)」でありポートフォリオにおける分散投資を促進できること。そして2020年までに、インパクト投資が1兆ドルのマーケットになるとぶち上げる試算を提示したことである。

 この試算は今や幻であったことが共通見解となっているが、このレポートをきっかけとして金融機関が本格的に考えはじめ、インパクト投資がアジェンダとして認識される礎を築いたと言えるだろう。

③起業家が陥る「パイオニア・ギャップ」を指摘したレポート

Monitor Group, Acumen “From Blue Print to Scale ~The Case for Philanthropy in Impact Investing~(2012)

Sasha Dichter, Robert Katz, Harvey Koh, & Ashish Karamchandani – “Closing the Pioneer Gap” Stanford Social Innovation Review
 3つ目のレポートは、モニターグループとアキュメン(Acumen)が発表したレポート、「From Blue Print to Scale (『青写真からスケールへ』)」だ。JPモルガンのレポートが「金融機関側からみたインパクト投資の可能性を見る視点」であったとするなら、このレポートは「社会的企業側から見た、その成長プロセスにおいてインパクト投資がどういう役割を果たすかを位置付ける視点」であり、一躍、ベンチマークとして活用されるようになった。

Sasha Dichter, Robert Katz, Harvey Koh, & Ashish Karamchandani - "Closing the Pioneer Gap" Stanford Social Innovation Reviewより転載。

Sasha Dichter, Robert Katz, Harvey Koh, & Ashish Karamchandani – “Closing the Pioneer Gap” Stanford Social Innovation Reviewより転載。

 中でもこのレポートで提示された「パイオニア・ギャップ」という問題の指摘は、2015年においても変わらぬ問題として提起されている。本レポートでは社会的企業のステージを、構想(Blue Print)→検証(Validate)→準備(Prepare)→スケール(Scale)の4段階に分けて整理している。金銭的リターンも確保しようとするインパクト投資が、結局スケール段階への投資の集中を招き、構想・検証段階への投資を生まない現象を「パイオニア・ギャップ」と名付けた。

 インパクト投資の議論がより投資家サイド寄りに傾く昨今において、この「パイオニア・ギャップ」の指摘、社会的企業サイドでの議論を展開した本レポートは、今こそ読む価値のあるレポートだと思われる。

④リスク・リターンに加えて、インパクトの軸も取り入れたフレームを提示

JP Morgan “A Portfoil Approach ~A Practical Guide to Building, Analyzing and Managing a Portfolio of Impact Investors ~”(2012)

 4つ目のレポートは、JPモルガンが2012年に発表した、「A Portfoil Approach(『ポートフォリオ・アプローチ』)」①のレポート発表後、金融機関で多くのインパクト投資の金融商品が組成されるようになったことを踏まえて、ファンドマネージャー向けのポートフォリオフレームを提示したのが本レポートである。

 投資においての20世紀の基本概念が、リスクとリターンの考慮であったことを踏まえて、本レポートではリスク・リターン・インパクトの3軸のフレームを提供している。このフレームは後に取り上げる⑤のレポートでも採用されるなど、多様化が進むインパクト投資の類型・カテゴライズの理解に頻繁に用いられるフレームワークとなっている。

JP Morgan “A Portfoil Approach ~A Pratical Guide to Building, Analyzing and Managing a Portfolio of Impact Investors ~"(2012) より転載。

JP Morgan “A Portfoil Approach ~A Pratical Guide to Building, Analyzing and Managing a Portfolio of Impact Investors ~”(2012) より転載。


⑤インパクト投資の立ち位置を整理したレポート

Bridges Ventures “Sustainable & Impact Investment〜How we define the market〜 “a decade of investing for impact and sustainable growth “(2012)

 インパクト投資が盛り上がる中で、そのトレンドに引っ張られる形で、インパクト投資の基本的な考え方に不慣れなアクターが目立つようになった。そんな中、従来の投資やフィランソロピーとの比較において、インパクト投資のポジションを図式化する動きが加速する。

Bridges Ventures “Sustainable & Impact Investment〜How we define the market〜 “a decade of investing for impact and sustainable growth "(2012) より転載。

Bridges Ventures “Sustainable & Impact Investment〜How we define the market〜 “a decade of investing for impact and sustainable growth “(2012) より転載。

 2012年にイギリスのVCであるブリッジズ・ベンチャーズ(Bridges Ventures)は、インパクト投資のポジションをSRIやESGなどの隣接する概念と比較する上記の図式を発表した。「インパクト投資」について議論をしていても、人によってそもそも定義が異なっていることが頻発する中、その共通理解を確認する手助けをしてくれるレポートと言えるであろう。

⑥ 各国の行政がインパクト投資へ参画する決め手となったレポート

UK’s Presidency of the G8 ”Impact Investment ~The Invisible Heart of Markets~” (2014)  

 2013年イギリス開催のG8において、キャメロン首相がインパクト投資をサミットにおけるアジェンダとして持ち込んだことで、各国の政府主導の取り組みが加速することとなった。そのタスクフォースで一回目に提示されたのがこのG8タスクフォースのレポートである。

 これまでの金融機関やインパクト投資家のレポートとは異なり、行政がインパクト投資になぜ取り組むかといった視点が盛り込まれたことで、ソーシャルインパクトボンド・Pay for Successの動きが加速することとなった。

 各国で組織されたタスクフォースは、それぞれの国内における取り組みの状況をまとめたレポートを発表するなど、行政をも巻き込んだインパクト投資の取り組みが加速している。

まとめ

 いかがだったでしょうか? 直近5年間のインパクト投資の「メインストリーム化」と「アクターの多様化」といったトレンドが、これらのレポートから読み取れた。

「インパクト投資」という大きなトレンドを追いかける段階はすでに終了している。現在は、それぞれのアクターがそれぞれの文脈に落とし込み、その取り組みに生かす動きにシフトし始めている様子。

今回のレポート6選は、インパクト投資初心者の方々が、次への動きを模索し新たなうねりをつくっていく際のヒントとなることを願って紹介した。知識吸収だけでなく、ぜひこれを活動や新しい社会的インパクト投資の活動に活かし、Impact Compassまで成果を教えて下さい!

(冒頭写真:photo by Light Reading)

この記事の執筆者

山口 洋一郎
Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。

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