SIB上陸で浮き彫りになる助成と投資の衝突【後編】 求められる金融機関のアントレプレナーシップ

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日本のSIBは投資文脈へと飛躍できるか?

 話を日本に戻そう。日本にも上陸したSIBはすでに3つの自治体でパイロットプログラムがリリースされている。パイロットプログラムの意味する所は、成果報酬モデル部分のカットである。つまり行政、外部投資家の巻き込みは非常に難易度が高い事を踏まえて、現在は実質「助成」モデルでSIBを走らせている、と言う事ができるだろう。

 成果報酬モデルによって金融機関からのリスクマネーを取り込み、事業者のソリューションを地域でスケールさせること、そのインセンティブの設計をする事がSIBの核である事を考えれば、次年度以降の成果報酬モデル及び外部投資家の参画が待たれている。

 日本で加速する「社会的インパクト投資」のムーブメントを本物にしていくために、果たしてそれは可能であろうか?SIBのパイロットモデルは、投資文脈へと飛躍できるか?この一点に、その真価が問われていると私には思えてならない。

 

日本の金融機関の「覚悟」が問われる

 前述した日本のSIB第一号案件では、横須賀市の事例に日本財団が1900万円の資金を提供している。この事実から分かることは2点。まずひとつは、コーディネーターとして案件を主導した日本財団が、「投資家(助成)」のポジションも掛け持ちしているという事。そしてもう1点は、その案件規模。NYの事例でブルームバーグ財団が結果的に6億円を拠出する事になった事を考えると、まだまだ”パイロット”段階である事が分かる。

 この点で問題になるのが、そのスケール規模が結果的に日本の金融機関の参画を困難にするという事実である。金融機関は案件を金額の多寡で判断する。理由は一つ。手間暇は同じでありながら、その成果(手数料や金銭的リターン)はその大元の金額が大きくないとビジネスとして成り立たないからである。

 日本のソーシャルビジネスシーンに国内の金融機関が”投資”の文脈で参画できないのも同様の理由である。金融商品であれば100億円以上、ファンドでも10億円以上の案件でないと実質的には参画は難しいであろう。

 

金融機関参画のシナリオはこれだ!

 それでは日本の金融機関の参画の糸口はどこにあるだろうか?それを探るためには日本の金融機関の外部事業環境を整理する必要がある。まず投資家とのビジネスにおいて、金融機関はフローからストックへの切り替えを迫られている。理由は2点ある。

 1点目はフローのビジネスはマーケット環境によって大きな影響を受けて安定しない事、そしてもう1点が投資信託の回転売買提案に対する金融庁の規制強化である。こういった事業環境の中で、金融機関は投資家とのビジネスにおいて「ファンドラップ」に代表されるようなストックビジネスによって、投資信託の次の収益の柱を見出している。

 そんな中でEB債と呼ばれる仕組みが現在の金融機関の収益を支えている事実は見逃せない。期限・利率が決まっている債券でありながら、組み入れられた株価の上下によってそのパフォーマンスが変化する金融商品だ。高リスクのデリバティブ商品であるため、私募債として組成されるこの商品。株価動向によって組成が繰り返される事から、金融機関の新しい収益の柱として位置づけられている。

 このEB債における指標の「株価」の部分に、SIBのパフォーマンスを組み入れて金融商品を組成する事は可能であろう。それによって金融機関は既存の投資家にとって馴染みのある手法でSIBへの参画が可能になる。

 

求められるのは金融機関の「アントレプレナーシップ」  

 日本におけるインパクト投資の歩みはスピードが遅い。昨今の年金基金の運用改革においても「ESG投資」の文脈の記載については二行に過ぎない。年金基金の運用からインパクト投資に火がついた欧州と同様の文脈は日本では期待できないであろう。

 助成と投資をミックスしたモデル。それが”社会的インパクト投資”が”社会的インパクト投資”である所以である。日本でスタートした助成モデルのSIBの取り組み。2016年度以降、投資家を巻き込んだ”本物”の取り組みへの飛躍していくために、金融機関、投資家の参画は欠かせない。    

 イノベーションの源泉とは何であろうか?「お金」だろうか?それとも「仕組み」だろうか?Impact HUB Tokyoのホストとして、それは「一人一人のアントレプレナーシップである」と声を大にして伝えたい。「お金」を生み出すことも、「仕組み」を作り出すことも、すべての価値の源泉は「アントレプレナーシップ」である。

 その”アントレプレナーシップ”に応える仕組みとして「投資」は始まった。起業家が投資家を感化し、投資家もまたリスクをとって起業家を鼓舞する。どんな組織においても求められる関係性は、変わらないはずである。今求められるのは、投資家の”アントレプレナーシップ”、そして金融機関で資本主義を支える一人一人の”アントレプレナーシップ”である、と私は強く伝えたい。日本の社会的インパクト投資において、様々なアクターが動き出している。その誰もが”アントレプレナーシップ”を尊び、失敗をもオープンにして切磋琢磨して前に進める関係性こそが、”変化を生み出す”と。そう信じる人が一人でも増え、動き出すことを期待したい。

 

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>>SIB上陸で浮き彫りになる助成と投資の衝突【前編】待たれる金融機関の参画

この記事の執筆者

山口 洋一郎
Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。

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