日本にソーシャル・エンジェルは存在できるのか?ーSOCAPが教えてくれた、「ソーシャル・スタートアップ生態系」の作り方

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未来を考え尽くす起業家達よ、集まれ

 また、今年も、サンフランシスコのFort Masonで、熱意あるピッチをする起業家達が集結した。起業家達が素早く口にする言葉は、本当に多様だ。インドの水事業、ヘルスケアのモバイル化、シェアエコノミーを促進する事業、人材育成のテックを使ったスケールアウト、サステナブルな食産業、などなど。全てが未来の社会のあり方を模索するものだった。  

 この「SOCAP」というカンファレンスでは、ソーシャルゲームやガジェット系のスタートアップのような「手前にすぐ見えてるデマンド」のためではなく、未来を見据えて、「これからの世界はこうなる、これからのデマンドはこうなる」ということを考え尽くしたスタートアップ達が勢揃いする。

 彼らは息の長い投資を必要とするかもしれないが、確実に「未来の動き」を創るスタートアップ達の一つになるだろう。決して、明日明後日に大ヒットになって、1年後に消えるようなスタートアップではない。それが、SOCAP(Social Capital Market:日本語読みで「ソキャップ」)の醍醐味である。そして、このSOCAPを運営しているのが、世界中のImpact HUBであり、ここに集まる起業家たちこそ、Impact HUBのネットワークが信じている、スタートアップ・起業家たちのあり方だ。  

 

集まる投資家の資産もものすごい

 この熱に乗じて、世界中から、富裕層のインパクトインベスター(インパクト投資の投資家)が集まる。今年は2200人が集まった。昨年は1800人。毎年、この「インパクト投資」の市場やアクター達が増えていることが分かる。今年もビギナー向けのセッションが多々行われ、「インパクト投資とは?」を学びにきた投資家達も多かった。

 サンフランシスコにて、幾人かの「スタートアップ事情」を探る人たちと話していて分かったのは、テック系のスタートアップよりも、遥かに「インパクト投資」の投資家達の方が、大金持ちであるということだった。多分、桁が違う気がする。テック系の投資に数回既に手を出していて、毎回かなりの利益を得ている投資家達が、今度はソーシャル&テック系の投資に動いて行く。(そんな彼らを私は「ソーシャル・エンジェル」と呼ぶ)上には上がいるのだ。  

「ゲームはいらないんだよな。それより、社会構造を変えるようなチェンジメイカーに投資したいんだ」

 そんな声を何度も聞く。そして、投資家達は中途半端な富裕層ではなく、正真正銘の富裕層達が集まっている。見返りが必要ないくらい投資家達はお金が余っており、彼らがもとめる見返りは、「世界をいい方向に変えるための、面白いことをやっている奴の背中を、一発どーんと、押してやりたいんだ」というものだ。  

 そういう投資家がこの世の中にいる、ということ自体が、ポジティブなサインに見える。サンフランシスコやシリコンバレーに来ると、皆どのくらい投資で儲かったかの話をしているのだが(カフェにいても隣でそんな話をしている)、こういう人達が存在し、「俺らはああいう会話にはうんざりなんだ」と言う。この動きは、こういう人達からしか、広がって行かないのだ。    

 

本物のメンター達がいる、と痛感

 私がここに毎年参加しているのは、本物のインキュベーション、アクセラレーションをしている人たちに出会えるからだ。インキュベーションとは事業ができあがる最初の孵化を手伝うこと、アクセラレーションとは起業家達に色々と教え誘い、事業を加速させることだ。

 私自身が、アクセラレーションを日本でやっているということで(「Team360」というプログラムを持っている)学びにきているのだが、それだけでなく、私自身が起業家であり、ここに来ると起業家としても学びが多いので、メンターリングを求めて来ている。精神的にも繋がりを持てる人達が多く、毎回、私の心の支えになる人を見つけることができる。

 今回も、製造業のスタートアップの仕事の関係で、途上国市場を攻める上での製造業リーンスタートアップの事業戦略について、色々なかなり良いメンターリングを受けることができたと思っている。MITやスタンフォード等でスピンアウトしていくスタートアップ向けにメンターリングをしている人達からも色々と教わることができたし、逆に、途上国市場の現地から来ている人達からも実際の内部事情を色々と教わることができた。きわめて、このカンファレンスの投資対効果は高いのである。

これは起業家たち、投資家たちの、価値観を共にするコミュニティだ。だから、笑いやカジュアルな会話が絶えない。皆、友達だ。

SOCIAL CAPITAL MARKETS@ Flickr (https://www.flickr.com/photos/socialcapitalmarkets/14963752977/in/set-72157647254407461)

 

 日本ではなかなかこうした機会がない、と私は感じている。多くの日本の起業家は「メンターって何?」状態だと思うが、メンターの存在の重要性をまだ認識していないと思う。

 日本では、全ては「夜の飲み会」で話されるものであり、夜のインフォーマルな食事が伴うものだ。私がお酒を飲まないし、外食が好きではないので、その機会がほとんどないのかもしれない。また、総じて、日本のスタートアップ云々業界や起業家業界は相変わらずかなりの割合で『男性社会』である、というのもあるだろう。男性起業家達が、男子校みたいにつるんでいる。そんな中、私はいまだに、日本人の良いメンターになってくれるような人に出会えていないのである。  

 毎年この場に来ると、メンターとなる人達は私のことを覚えてくれていて、「詩野、今、君の事業はどうなってる?」と声をかけてくれ、5分の立ち話でアップデートし、重要なことを十分に効率的に伝えてくれる。今考えなければならないことを、スパッと言ってくれ、「じゃ、また来年」と去って行く。私にはそれで十分だし、彼らにもそれで十分なのだ。  

カンファレンス内では至るところで、起業家のピッチプラクティスも行われている。

SOCIAL CAPITAL MARKETS @ Flickr (https://www.flickr.com/photos/socialcapitalmarkets/14982124942/)

 

同じ方向性を向いている、起業家達が経験をシェア

  あと、このカンファレンスの凄いのは、本当にものすごい数のセッションが行われる、ということだ。気になる人はスケジュールや、どんなセッションが行われたかをみてほしい。驚異のセッション数だと思う。それだけ話したい事が山のようにあって、皆、1年間待ち続けている。「ああ、サンフランシスコで会う時に、話したい、聞きたい!」と。  

 

小さなセッションでは、自分の事業をぶっちゃけて話し、オーディエンスに救いを求める

(撮影:Hub Tokyoチーム)

 このセッションの中に、かなりマニアックなテーマのセッションがいくつもあり、その分野で経験した起業家達が色々と内部事情を話してくれる。

 決して、上がりきった起業家ではなくて、今まさにその分野でもがき、苦しみ、いろんな形で工夫しようと苦しんでいる起業家が登壇し、状況を話すのだ。それに対し、オーディエンスは学びにきているんではなく、「じゃあこうしたらどうだ」とアドバイスをする人もいる。

 経験をシェアし、お互いにお互いをアップグレードさせようとしている。まさに、これがHUBのカルチャーである。だから私たちは、「起業家のコミュニティ」が重要だと考えているのだ。    

 

事業パートナーを見つけるための投資対効果は高い

 私の今年の収穫は、複数の分野で進めているいくつかの事業の事業パートナーを見つけることができたことだ。一度に、一気に、全部解決した。(笑)また、去年来た人達も多大な収穫を得たと話していた。事業パートナーを見つけて、次のステージに進めるからだ。  

 サンフランシスコの人に会いに来たのではない。世界の人達が集まる。だから、世界中の人と出会うために来たのだ。本当にグローバルな事業を複数しようとしている人は、ここに来ると一気に色々解決するかもしれない。ここで私は面白い出会いがいくつかあった。ポートランド市の行政の人と、東京のPlace Based Innovationについて話すことができそうだし、サンフランシスコのアクセラレーターとも恊働ができそうだ。ニューオリンズの復興支援団体と、東北のアントレプレナーシップについても相談した。今考えていたマイクロファイナンス事業の新しいコンセプトも手に入れた。投資ファンドについても情報は入ってきた。収穫は、色々なところから、予期せぬ形で舞い込んでくる。  

4日間はミーティングの嵐。アメリカ中、世界中からワサワサ集まってくる。

SOCIAL CAPITAL MARKETS @ Flickr (https://www.flickr.com/photos/socialcapitalmarkets/15150288775/)

 

日本で「インパクト投資家」になりたい投資家の方へ

 SOCAPの今年のタイトルは、「IGNITE VIBRANT COMMUNITIES」(活発なコミュニティに着火させろ!)である。まさに、このようなカルチャー、このようなインパクト投資が世界各地で着火されることが目的のカンファレンスだ。

 これから、帰国しての私たちの日本での活動は、まさに「どう着火」するかだ。ぜひ「インパクト投資家」になりたい投資家と話をしていきたい。私たちは今までかなり色々な種類の「インパクト投資」を研究してきたし、世界中の事例を、テキストブックレベルではなく、「目の当たりにしてきた」レベルで、知っている。その酸いも甘いも、知っている。その後、起業家達がどうなってしまったか、市場がどうなってしまったかも知っている。

 諸手をあげて大賛成というわけでもなく、その良さも悪さもしりつくしているからこそ、慎重にアドバイスできるだろう。そういう投資家達がいたら、日本でムーブメントを創って行くための最初の一歩を共に歩みたいと思う。

冒頭の写真は、サンフランシスコで20年以上インパクト投資をはじめてきたベンチャーキャピタルを最初に創ったケビン・ジョーンズ。彼はHUBサンフランシスコのオーナーの一人でもある。

 彼のような、日本で最初の「インパクト投資家」になりたいと思うような方がいれば、ぜひご連絡いただきたい。私たちはあなたのアセットを、かなり素敵な活用の仕方で、良い流れにお金を流して行けるように一緒に生態系を創って行くことができるはずだからだ。もしそういったことに関心のある方はこちらまでご連絡を。私たちは今年から仕掛けて行きます!

この記事の執筆者

槌屋 詩野Impact HUB Tokyo共同創業者Twitter:@shinokko
2012年よりインパクトを作り出す人たちの拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラムを設計、海外のプログラムのローカライゼーション・アドバイザー、企業の社内起業家育成スキームの設計、また、企業ベンチャーフィランソロピー分野で投資アドバイザーとして活動。

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