投資家と起業家は新たな関係性を築けるか。試される両者の心意気。

起業家と投資家は新たな関係を築けるか

ようやく国内でも芽生え始めた社会的インパクト投資の萌芽

 日本で初めて、社会的インパクト投資に関する会合が5月末に開催された。日本で「インパクト・インベストメント」が議論の話題として取り上げられ、きちんと会場を設けてカンファレンスが行われるのはこれが初めてである。G8タスクフォースからの外的なプレッシャーがあったからとは言え、この規模のカンファレンスを実際に開催する為に尽力された日本財団とG8タスクフォースの方々には拍手を送りたい。  

「ソーシャルな活動は非営利」という発想の限界と「ソーシャル」の定義を巡って始まった迷走

 2009年に「社会起業家」という言葉がいわゆる「ヒット」(流行語化)してから、日本における「社会起業家」の文脈は常に「非営利で、ビジネス手法で、社会的課題を解決する」に終始していた。ソーシャルな活動は「非営利で行うもの」という認識が社会の中で広がっていった。

 その風潮が次第に「非営利じゃなくてもいいんじゃないか」「利益最大化を目指さないものであれば、一定のスケーラビリティを確保し、きちんと雇用をふやし、活動を地に足つけて続けるには、非営利だけを謳ってては無理だろう」という意見が大方を占めるようになり(いや、なっていないところもありますが)英語で言う「For Profit Social Enterprise」の位置付けが次第に認められ、最終的には「ビジネス的手法で、社会的な課題を解決するものすべて」に関心領域が広がっていった。

KvK Creative Entrepreneurs Gathering at Strijp-S By Playing Futures: Applied Nomadology @ Flickr:https://flic.kr/p/7Tb1y2

 しかし「非営利で」という言葉がなくなった途端、ステークホルダーは急増し、通常の企業、スタートアップも、皆同じ地平に立った。特に、問題解決を明確にして顧客観察を行いソリューションを提供する、というメソドロジーで事業を作り続けるスタートアップたちは、まさに「ビジネス手法で、課題を解決」しており、その中で取り上げる「課題」には「社会的課題」と呼べるに等しいものも多く存在する。その境界線は曖昧になった。

 これによって、「ソーシャル・ビジネス」と「ビジネス」の区別、「ソーシャル・イノベーション」と「イノベーション」の区別が曖昧になっていく。それは全然それで構わないはずなのだが(従来、それらの区別を目的としていない論の場合は、区別をそもそもすること自体が無意味だからだ)、いくつかの分野ではそういかない。

 例えば、投資・融資・資金提供側の世界では、資金の出し手が納得する投資先でなくてはならず、特にお金を誰かから預かって投資する仕組みの場合は、預かった側の説明責任が強く存在し、「正当化」が必要になる。そうすると、逆に今度は「ソーシャルとは何か」の定義が強く必要とされ、揺り戻しのように「ソーシャル」を区別または正当化するために、NPOだけに資金を提供する、または、非営利か否かを判断の基準とし重視する動きも水面下では強く感じられるようになったように思う。この揺り戻しは、吟味し始めると非常に複雑で頭がこんがらがるがゆえに、非常に乱暴に「えいや」で、または安易に行われてしまうことが多いように感じられた。  

日本における「ソーシャル」な文脈に「営利」形態でどこまで立ち向かえるのかという挑戦

 そんな中、私はImpact HUB Tokyoを起業した。あえて「NPO」の形態を選ばず、外部に「投資家」のいる株式会社としてスタートした。理由の一つは、月並みだが、早急にそれなりのイニシャル・キャピタルが必要だったからで、NPOの形態で数ヶ月に集められる金額は数百万円と限界があった。(当時はまだクラウドファンディング市場も大きくなかったためである)

 だが、もっと大きな理由として、「営利」とされる「株式会社」の形態で、どこまで日本の社会で、「ソーシャル」というポジショニングができるのかを試してみたかったのだ。他にもいるであろう、またはあとを続くであろう、多くの志ある社会起業家たちに、「株式会社」という法人形態でチャレンジできる可能性を一緒に考えられるようなパスを作っておきたい、と考えたのである。

 その結果として、やはり日本の現代社会においては我々は「社会起業家」とは認識されにくい、ということもわかった。「株式会社なんですか?」と驚かれることも多いし、「株式会社の方はちょっと」と断られることも多い。「ソーシャル」な活動を行うのはNPOであることが、まだ日本の中では「社会的に正当」と思われる。その一方で、差別・逆差別のような関係で、いろいろなレッテルがそこに存在している。これは「利益を稼ぐ=自分たちの食い扶持を確保する」ことと「社会的な課題を解決する=公益に奉仕する」の両者が両立する世界観が、まだあまり日本で根付いていないからだと思われる。  

社会的インパクト投資を語る際に立ちはだかるNPO神話

 「投資」を語る上で、「NPO」なのか「株式会社」なのか、は重要な論点であるが、日本では「社会的インパクト投資」をいくら話しても、まだこの「NPOでなければならない」の壁が強いがゆえに、「投資可能な社会起業家」が少ない。ここで言う投資とは、「株式による投資」であり、広義の「人・物・金を提供したり連携したり、融資や寄付などの投資的なマインドセットの活動」を含めない。そこには大きな差がはっきりと存在するからだ。

 「なんらかのリターンが来ることを期待し、数年後の存続と事業発展を期待して、いつ帰ってくるかわからない金銭のやりとりをし、身銭を切ったリスクをとる投資行為」と、「リターンの形を金銭的なものと無関係の定義だけ行い、金銭的リターンは0と割り切っている寄付行為」は大きく違う。また、「着実に長期にわたって、返済してもらうことを前提にした融資行為」も大きく違う。

 これらのマインドセットの差は、資金出し手側の性格や素質が大きく問われるところだと思う。 ゆえに、日本では未だに「インパクト・インベストメント」とはっきり言うことが難しく、「社会的インパクト投資」となんとなく濁さざるを得ない。なぜなら、「投資行動」に限定できないからで、より広義でとらえないとマーケットがそもそも存在していないからだ。「社会的投資」と「インパクト投資」のステークホルダーを、なんとなく丸っと丸めておかないと、ボリュームとして存在しない上、頭脳やプラクティスも集まらず、議論が前に進まない。

 一方、海外での「インパクト・インベストメント」の分野は、投資をしているステークホルダーと、そのほかのステークホルダーはクラスターとして別扱いとなる。マインドセットも異なれば、出自や立ち位置も全く異なるからだ。アメリカやヨーロッパ(またはその影響を強くうけている途上国や他の国)では、ベンチャーフィランソロピーの分野におけるエコシステム、インパクト・インベストメントにおけるエコシステム、チャリティにおけるエコシステム、すべてが異なるステークホルダーと深さを持っている。もちろんカバーしあう部分や共通点は多いのだが、同じエコシステムから異なるマインドセットのコミュニティを生み出すのは難しいはずだ。なにも海外が良いとは言っていない。ただ日本の状況が海外と比較すると見えてくる、ということは確かだ。  

シンポジウムから垣間見えた日本的発想の限界

 そういう意味からも、先日の「社会的インパクト投資シンポジウム」で見たことは、極めて日本的な議論が行われた場となったと思う。特に、ランチタイムにImpact HUB Tokyoのチームで行ったアンカンファレンス形式のセッションの中では、人々の関心がどういうところにあるかが、如実に現れる結果となった。

 我々は最初「どうやってNPOや起業家に投資するか」や「起業家と投資家の関係性はどうすべきか」というトピックが上がることを期待して準備していたのだが、投資家・投資先間に関する実践的な議論よりも、多くの人が興味があったのは構造的な問題やフレームワーク作りの机の上の話が多く、「資金源はどうするか」ということが意外と人々の関心にあったことがわかった。

 これは、実は寄付を議論する時と全く変わらない、「誰がお金出すの」論なのではないだろうか、と思った。投資なら、寄付とは異なるマインドセットが発動されるはずで、そうであれば資金源は変わるはずだが、「投資行為の根源」に関する議論がすっ飛ばされているので、やはり結局「こんなに社会性の強くて儲からなそうなモデル、誰がお金出せるの」論になるのである。(これは「こんなに社会性の強くて儲からなそうなモデル」というレッテルが貼られていること自体も大きな問題なのだが。)

 休眠口座が解禁になることが呼び水になる、と大きな期待をされているが、残念ながらこれもあまり変わらず、最終的に「投資」なのか「寄付」なのかのマインドセットを変えるものになっていないのではないか、根本的な部分には突っ込んでいく話ではないのではないかと、私は個人的には考えている。

 また、Social Impact Bond(ソーシャル・インパクトボンド)もあくまで行政が負担してくれるから出しやすい、というリスクをいかに抑えた資金源確保をするかの手法であって、私が気になっている点、「リスクをいかにとるか」または「リスクをいかに機会へ変えるか」という部分とは異なるようだ。

Group Feedback by Social Enterprise UK@Flickr: https://flic.kr/p/f83P6u


如何にリスクを取っていくか、チャンスに変えていくかこそが社会的インパクト投資の本当の面白さ

 今、日本で起きている「社会的インパクト投資」の議論は、残念ながら、「起業家と投資家のリスクを取り合い前に進む姿」に最初の一歩を踏み出した程度で、まだまだ遠い。そのため、この面白みの半分くらいしか享受できない気がする。

 これは私の個人的な意見なのだが、事業とは、起業家も投資家も、それぞれの立場からチャレンジするから面白い。リスクを完全に抑え込んだことをしてもイノベーションは生まれない。(それは私がギャンブラーだからなのだろうか?)ただ、リスクの取り方、リスクを機会に変える変え方があるはずで、そここそ、インパクト投資の面白さなのではないかと思う。そういう議論が日本で始まるまで、この面白さをもっと伝えるべく、頑張りたいと思う。

 日本以外で起きている「社会的インパクト投資」の議論の面白さ、日本の次のステージがどんな地平か見てみたい人は、ぜひSOCAPへ一緒に行きましょう。私たちは、こういう議論ができる人たちが、日本にもっともっと増えることを楽しみにしています!


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この記事の執筆者

槌屋 詩野Impact HUB Tokyo共同創業者Twitter:@shinokko
2012年よりインパクトを作り出す人たちの拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラムを設計、海外のプログラムのローカライゼーション・アドバイザー、企業の社内起業家育成スキームの設計、また、企業ベンチャーフィランソロピー分野で投資アドバイザーとして活動。

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