SOCAP参加者インタビュー:果たして企業はこのままでいいのだろうか?【後編】

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SOCAP参加者インタビュー vol.1
株式会社ベネッセホールディングス 三木貴穂さん

 

SOCAP参加者インタビューシリーズ。第一弾はベネッセホールディングスより三木高穂さんにお話を伺っています。

前編ではSOCAP参加にいたった三木さんの問題意識や想いをシェアして頂きました。後編では、実際に行って、なにを見て、なにを感じたのか。クラウドファンディングプラットフォームの最先端や大企業の教育分野におけるSocial Impactの仕組みづくりについて語って頂きます。

 

小林 − 実際に行ってみてどうでした?

三木 − 一番驚いたのは寄付や貸し付けではなく投資を可能にするCrowdfoundingの新しいスキームがもう実現しつつあるということです。一月のJOBs Actの施行に向けて、WeFounderというところがもうすでに動き出しています。「サービス開始は一月ですよ」といいながら、早々と投資家と投資先を集めてエクイティベースのクラウドファンディングプラットフォームを作り始めていました。

WeFounderにはもうすでに9,000人以上の投資家が集まっており、$100という少額からの投資が可能となっています。実はJOBS Actが通過した背景にはこのWeFounder創設者のグループの働きかけがあったという話も聞きました。とにかく彼らは今後のクラウドファンディング業界において大きな潮流の一角となる可能性があります。

 (注釈:JOBS Actというのは Jumpstart Our Business Startups Actのこと。新興企業の市場内外での資金調達力を高めるための法改正で、中でもCrowdfunding exemptionと呼ばれるクラウドファンディング条項が注目されています。これにより、非公開企業が不特定多数の投資家に対し、登録なしに少額の募集を行うことが可能になります。)

小林 − Social Financeのコンテクストにおいて、JOBS Actの施行により具体的に何が変わるのでしょうか?

三木 − 専門的な話になるので詳細には触れませんが、これまでは非公開企業が不特定多数の投資家に対し、米国証券取引委員会(SEC)への登録をすることなしに少額の募集を行うことが認められていなかったのですが、この法律によって一定の条件の範囲で登録無しの募集ができるようになります。

これに伴い、証券会社だけでなく資金調達ポータルサイト(プラットフォーム業者)も非公開企業の株式を取り扱うことが可能となります。日本の場合も、すごくおおざっぱに言うと、50人以上の株式の募集を一般の人に対して行う際には、証券会社(第一種金融商品取引業者)でなければ行うことができません。

つまり、日本ではプラットフォーム業者がエクイティクラウドファンディングを行うことはできない、ということになります。実は似たようなスキームでクラウドファンディングを行うやり方はあって、日本でも数少ない企業がプラットフォームの運営を行ってはいます(ミュージックセキュリティーズ社の「セキュリテ」は世界的に見ても画期的なスキームだと思います)が、規制上運営コストが多大にかかることからまだまだ広がりがなく、その他のスキームは、米国同様いわゆる「購入型」のクラウドファンディングがほとんどです。本当の意味でのソーシャルファイナンスの業界はまだこれから発展の余地があると思います。

教育の分野でSocial Impactを生み出す仕組みづくり

三木 − もう一つの大きな収穫は、PEARSONという教育関連の企業の面白い取り組みと仕組みづくりについて話を聞けたということです。彼らは、今年7月にAffordable Leaning Fund という$15Mのファンドを作り、開始とともにガーナの教育機関に投資しています。

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Pearson to Invest $15 Million in International Private Schools / MARKETPLACE K-12

 私たちは、今のビジネスモデルでは途上国のLower Middleとそれ以下の層には全くリーチできていません。しかし、これからはそういった人達こそが我々のサービスが必要となるし、ビジネスチャンスにもなるはず、という問題意識を私は個人的に持っています。そして、そこにリーチする一つのやり方として、PEARSON のモデルはとても参考になったんです。

いかに大企業をソーシャルな世界に巻き込むか

三木 − 行ってみて感じた全体的な印象としては、まだ解決策はないんだ、ということです。Impact Investmentという言葉は使われてはいるけれど、実際に体現できているところはまだあまり多くない。でも、これまでの失敗をベースにした課題設定が行われ、数少ない成功事例をもとに、次のステップへ進むためには何が必要かという議論が活発に行われていたのが印象的でした。

私は、日本の大企業をソーシャルイノベーションのエコシステムに巻き込むことが自分の仕事だと思っています。ビジネスセクターとソーシャルセクターのプレーヤーがお互いの文脈を理解した上で、ビジネスセクターがこの世界に入ってくるインセンティブ・メリットを徹底的に議論し、それを示す必要があるのではないかと。

現代の経営者の多くは今までのやり方では生き延びていけない、という危機意識は持っていると思います。人材確保の観点でも、特に英米ではここ数年で優秀な人材がソーシャル領域に多く入っていっていますし、日本でもその傾向は強まっています。短期的なPLを意識しすぎて事業領域が狭くなっていることもそうです。

そういったビジネスセクターの問題意識や危機意識を捉えて、「社会課題の解決に取り組むことが自分達の問題解決にもつながるんだ」ということを腹落ちさせられるかどうか、ではないかと思います。その為にも、小さくてもいいので成功事例をつくって、多くの企業が、それなら自分たちでもできるかも、と思ってもらって、社会を巻き込んだかたちでSocial Good を実現していく、そういった流れが作れればいいな、と思っています。

(インタビュー終わり)

今回のSOCAPには、Impact Investmentを実践しようと試みている人達が世界中から集まっていました。投資家、財団、ファンド、そして社会起業家。ですが、お金が流れていく仕組みを変えていくのは決して容易なことではありません。少しずつ小さな変化は起こっているとはいえ、今はまだ誰もが試行錯誤を繰り返している段階です。 投資のスキームとしても経済的なリターンが返ってくるのは、五年後、十年後が当たり前。長期的な視座に加えて、その間に得られる金銭以外のリソースにどこまで価値を見出すか、というマインドセットが重要になってきているように思います。

しかしそういった中で、政府や企業も含めたそれぞれのプレイヤーがそれぞれのリソースにレバレッジをかけて、セクターを越えたCollaborativeなお金の流れをつくっていこうという潮流は、少しずつですが確かに起こりつつありました。今回のSOCAPで感じたその実現への確かな兆しを、今後日本の文脈で活かしていくことが求められているのかもしれません。

(Photo by Impact HUB Tokyo)

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