ドットコムバブルの象徴的なスタートアップとして挙げられるeBay。SkypeやPaypalを傘下にしていた事でも知られる同社の創業者が、実は社会起業やインパクト投資の黎明期の立役者となってきた事は意外な事実かもしれない。
eBayの創業者であるジェフ・スコールとピエール・オミダイア。二人のそれぞれ異なる足跡を追う中で、いかに新しいフィランソロピーの潮流が形作られてきたかを見ていきたい。
eBay成功物語の始まり
eBayが創業したのは1995年。インターネットの黎明期である。当時28歳だったピエール・オミダイアはインタネットオークションの原型を構築した。その後ジェフ・スコールがパートナーとして加わり事業が加速。VCのベンチマークキャピタルの出資を受けるなどして、1998年にはスピード上場を果たした。
かくしてジェフ・スコールとピエール・オミダイアの二人は30歳にして億万長者の仲間入りをすることとなった。eBayはその後最大で$70B(約8兆円)の時価総額を誇る会社にまで成長。二人は今でも世界長者番付の常連となっている。
だが、彼らが秀逸なのは、自分たちが「億万長者」になる以外に、できることは何かを考え始めたこと。これを30代前半にして、実行できる人たちは多くない。彼らの実践した、フィランソロピーの数々をご紹介しよう。
社会起業の概念を広めた「スコール財団」
ジェフ・スコールは、eBayの上場によって得た10億ドル(約1200億円) を元手に、1999年にスコール財団(Skoll Foundation)を設立。当時、まだ広まっていなかった概念である「社会起業(Social Entrepreneurship)」を後押しする財団だ。この財団は、毎年約8000万ドル (約100億円)の寄付を提供し、この分野における世界最大の財団となっている。また、毎年4月にイギリスのオックスフォードで、Skoll World Forumを主催していることでも知られている。
また、ジェフ・スコールは財団だけでなく、自身の資産の投資ポートフォリオをインパクト投資を考慮する資産アドバイザー(Capricorn Investment Group)に委託したことでも注目を集めた。資産を効果的なインパクトにつなげるには高度な専門性が必要となることをいち早く見い出し、積極的にアウトソースしていく潮流の契機を作った、とも言えるであろう。
インパクト投資の立役者「オミダイア・ネットワーク」
一方、ピエール・オミダイアも、2004年にオミダイア・ネットワーク(Omidyar Network)を創設。自身を明確に「インパクト投資家」として位置付け、営利企業と非営利組織の双方へ、投資と寄付を行っている。これまでに合計で約4億ドル(約500億円)の投資と4.8億ドル(約600億円)の寄付を行っている。
主要な投資先は、Ashoka、change.org、BRAC、Code for America、Endeavor、Teach for India、Meetup、Global Impact Investing Network(GIIN)など。社会的企業(Social Enterprise)から、テクノロジーを活かしたスタートアップまで、幅広い投資・寄付を行ってきている。
ジェフ・スコールとピエール・オミダイアの実践から分かることは、テックスタートアップと社会起業の境界線など実は存在しないということだ。日本においては、そのアクター達が実質的に切り分けられている現状があるが、スコールとオミダイアが見る世界では、テックスタートアップと社会起業の双方が越境しあい、ナレッジやアプローチを応用しあう姿が、頻繁に発生してきている。
スコールとオミダイアが拓くフィランソロピーの未来
ここで注目するべきは、アメリカにおいてもフィランソロピーへの参画方法が変化してきている点だ。従来のアメリカにおける、起業家による典型的なフィランソロピーモデルは、財をなした実業家が晩年にその私財を使ってフィランソロピーに転じるというモデルだった。
例えば、ビル・ゲイツが、マイクロソフトを離れてビル&メリンダ・ゲイツ財団(BIll & Melinda Gates Foundation)に移った際も、ロールモデルとなったのは、カーネギーであり、ロックフェラーだった。
しかし、ジェフ・スコールとピエール・オミダイアが財団やインパクト投資に着手したのは、ともに30代前半。投資先や醸し出されるストーリーも、明らかに彼らの志向性が異なっていることが分かる。
社会起業とインパクト投資の世界を切り拓いてきた次世代の篤志家、スコールとオミダイア。フィランソロピーの次なる展開は、eBay創業者たちのような若き起業家たちの新たな挑戦が引っ張っていくだろう、と楽しみでならない。
(冒頭写真:Ebay Front by Ryan Fanshaw@Flickr)
この記事の執筆者
- Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。
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