事例から見る、インパクト投資の現場の舞台裏

sustainable coffee firming

国内ではまだまだ少ない社会的インパクト投資事例

 休眠口座の活用やソーシャル・インパクト・ボンドなど「社会的インパクト投資」と呼ばれる分野での議論が日本国内においても高まってきている。しかしながらまだまだ国内では実際の投資案件数の少なさから、案件化から投資完了までの過程で、実際のやり取りを知る機会は少ないように感じる。

 ウェブで調べても、同じケースを使いまわしたレポートや記事ばかりが飛び交っており、社会的インパクト投資の本当の面白さやそこに秘められたリスクをとってチャンスに変えていくことで開ける新たな時代への可能性が十分に伝わっていないように思うのは自分だけだろうか。

 そんな釈然としない思いを抱えていた矢先、Impact Alpha実際の投資案件の裏側を深掘りしたWebinar(ウェブ上のオープンカンファレンス)と関連記事が公開されているのを発見した。その内容が社会的インパクト投資の現場の様子が感じられる、非常に面白い内容だったのでこのブログでも数回に分けてシェアしていこうと思う。

コーヒースタートアップVEGAの事例から見る、投資決定プロセス

Sustainable coffee farming, Kenya by Nestlé @ Flickr : https://flic.kr/p/kTWUz7

 

 今回取り上げるのは、VEGAというコーヒースタートアップと、ADAPというインパクト投資家の投資案件のケース。VEGAはニカラグラアのコーヒー農家コミュニティの生産性および所得の向上をミッションとした社会的企業で、農家が現地でローストしたコーヒー豆を米国のコーヒー愛好家が定期購読するというビジネスモデルだ。店舗を持たないオンラインでの決済、仲介者を一切排除する物流で、プレミアム感のあるコーヒー豆を手ごろな値段で提供できることを強みとしている。また、ADAPは途上国の貧困問題の解決をミッションとする社会的企業に対して投資を行う社会的インパクト投資機関で、主にアーリーステージにいる起業家に投資している。ADAPの投資先はVEGAのような途上国農家の課題解決を志す企業から、医療やエネルギー分野など多岐に渡る。 そんなVEGAとADAPが出会ったのはSOCAP(注1)の舞台。インパクト志向の起業家に特化したアクセラレーターのAgora PartnershipsのメンバーがVEGAチームをADAPの代表Andy Lower氏に紹介し、SOCAPのディールルームで最初の会合が行われた。そのままその場で互いのミッションを話し合って確認し合い、Andy氏はそこでの出会いとミッションの共有がその後案件を進めていく際に土台となったと語っている。 最初の会合で、投資に向けた協議を進めることを決めたVEGAチームとADAPのAndy氏。そこからデューデリジェンス(企業評価)、タームシート(契約事項)のとりまとめ、投資契約の完了までにかかった期間は約8週間。  

極めて短時間で行われるデューデリジェンス。インパクト志向の起業家に対する投資家としてのコミットメントとは?そしてその判断基準とは?

注目すべきは、ADAPのデューデリジェンスプロセス。インパクト志向の起業家の負担を最小限に抑えたい、それが投資家として起業家を支援するADAPのコミットメントであると考え、デューデリジェンスはわずか4時間で完了するように設計しているそうだ。 投資の可否を判断するにあたって、ADAPのAndyは限られた時間で次のような問いをなげかけ、判断していく。この会社は破壊的なイノベーションを生み、新しいパラダイムを生み出すだろうか?正しいチームで構成されているか?大きなインパクトを生み出せるか?長期間生き残ることができるか?ビジネスプランの数字は理にかなっているか?1-2年後に直面するかもしれないピボットを乗り切るリーダーシップと能力を兼ね揃えているか?シリーズAの投資家を引きつけるビジネスモデルか? デューデリジェンス後、タームシートをまとめる。初回の会合、デューデリジェンスのプロセスで起業家のビジョンとビジネスプランに対しての理解、そして何よりも起業家と投資家との間の信頼を深めているため、ADAPの投資案件ではタームシートの取りまとめは比較的スムーズにいくそうだ。それはVEGAのケースでも例外ではない。 こうして8週間の期間を経て、ADAPは2014年11月に約600万円の投資を行った。他の社会的インパクト投資家も参加し、VEGAはこのステージで約4000万円の資金調達を達成。今後はオンラインショッピングサイトの立ち上げと、現地農家コミュニティの拡大のためのスキームづくりを進めていくようである。  

現場から見える、社会的インパクト投資が秘めている可能性と期待

今回のように、こうしたWebinarへの参加を通じて、社会的インパクト投資の案件の裏側を覗けるようになると、案件化の裏にある起業家と投資家とのビジョンの共有プロセスに面白さを覚え、日本からも社会的インパクト投資に挑戦しようとする投資家も増えていくのではないかと期待している。そのようなリスクをとってチャンスに変えていくような気骨ある投資家が増えてこそ、この分野の本当の面白さなのではないだろうか。他にも日本ではまだ話題にあがらないコンテンツが豊富に用意されているので、このブログでもどんどん紹介していく予定である。ぜひSubscribeして欲しい。 (注1)毎年米国サンフランシスコで開催される世界最大の社会的インパクト投資のカンファレンス。投資家や起業家、NGO関係者、政府関係者など多様なステークホルダーが2000人以上一同に会する舞台となっている。


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