社会的企業の抱えるジレンマ:利益創出と公益価値の最大化は両立できるか

(Chad Dickerson & Etsy by Scott Beale @Flickr : https://flic.kr/p/5oxxUm)

 日本国内において、「インパクト投資って結局なんなの?」という議論と同じくらいよく耳にする疑問が、「インパクト投資の投資先である『社会的企業』もしくは『ソーシャルベンチャー』って普通の会社と何が違うの?」という話です。 巷でよく話される定義論はあまり面白くないのでここでは取り上げませんが、今年に入ってから思考実験になる面白いエピソードがあったのでご紹介します。

 ここでいきなり質問ですが、、、 Etsyは「社会的企業」だと思いますか?Etsyはアート作品やハンドメイド作品のオンラインマーケットを展開するベンチャー企業です。2005年の創業以降、Amazonなどの既存のオンラインマーケットとは異なるクラフトマンシップ(職人精神)を重視するビジョンを掲げて急成長し、今年3月にIPOを果たしました。

 Etsyは知っているけど、Etsyが「B Corp」だということは意外と知られていないかもしれません。B Corpとは「株主価値だけでなく、公益(ここでは、従業員、地域コミュニティ、環境などを想定)の最大化を目指す企業」に与えられる認証で、代表的な例ではPatagoniaやBen & Jerry’sなどが取得しています。

 さらに、米国の州によっては、B Corpという認証に加えて、「Benefit Corporation」という法人格が制定され、公益の最大化をビジョンに掲げる企業を会社法で法的に守る仕組みもできつつあります。 Etsyはクラフトマンシップを守り育てるというビジョンだけでなく、従業員、地域コミュニティ、環境への配慮を創業から掲げており、その証明としてB Corp認証を2010年に取得しました。特に、従業員へのストックオプションの提供、ボランティア促進、パートタイム従業員に対して平均よりも40%高い賃金を支払うなどの取り組みが高く評価されていたようです。 このように、PatagoniaやBen & Jerry’sと並び、B Corp企業として評価を受けていたEtsyは広い意味での「社会的企業」だった、と言えるのではないかと思います。

 さて、そのEtsyがIPOをしたわけですが、ここで上場企業として株主からの要請に応えることと、B Corpとしての公益価値の最大化を維持することが、本当に両立できるのかという議論が生まれてきています。

(関連記事) Etsy I.P.O. Tests Pledge to Balance Social Mission and Profit Over Etsy’s B Corp status, who will bend: B Lab or Etsy?

 この問いに対して、現時点で明確な結論を出すことはできません。ただ、上記の記事によると、創業メンバーチームはB Corp認証の資格を堅持し、公益へのコミットメントを続けたいと考えているようですが、IPO直前に出資しているVC達はそうは思ってくれていないようです。

 B Corp認証はインパクト投資家にとっても「社会的企業」を判断するための指標として使われることがありますが、今回のEtsyのケースではそうではなかったようです。 IPOではありませんが同様の議論は、以前Ben & Jerry’sがUnileverに買収された際にも持ち上がりました。B CorpでもあるBen & Jerry’sは、買収前には売上の一部を寄付するなどの取り組みを重視していましたが、買収後これらの取り組みが維持できなくなってしまった、というエピソードです。(これは様々な見方があるので、詳細は割愛します。)

 社会的企業がメインストリーム化していくための一つのマイルストーンになりそうなケースだけに、EtsyがIPOの後も社会的企業としてのビジョンと取り組みを堅持できるのか、非常に注目してみています。

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(冒頭写真:Photo by Scott Beale

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