社会的インパクト投資って実際儲かるの?
インパクト投資は途上国援助の代替。インパクト投資は公共支出削減の手段の一つ。HUBや外のイベントで話を聞いていると、そんな認識が一般的のように感じます。一方、国内で意外と聞かない議論がインパクト投資の内部収益率(IRR)です。簡単にいうと、インパクト投資ってどれくらい「儲かる」ものなのか、という話です。この点について、Cambridge AssociatesとGlobal Impact Investing Network (GIIN)から最新のレポートが出ていたので、ご紹介します。
結論から言うと、「通常のベンチャー投資に比べると若干見劣りはするものの、遜色ないIRRを出している」ということです。さらに、「1998-2001年代に立ち上がった途上国向けのインパクト投資機関のパフォーマンスは、通常のベンチャー投資のIRRを大きく上回る」とか。なるほど。少し詳しく見てみましょう。
この調査は、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点で投資先を明確にスクリーニングするタイプの投資、社会課題解決を目指すベンチャー企業に対してマーケットレートよりも低いIRRでも投資をすることを掲げているタイプの投資などを総じて「インパクト投資」として扱っています。比較しているのは、「社会的インパクトを生み出す」などのメッセージを投資家に対しては出していない、いわゆる通常のベンチャー投資ファンドです。
1998-2010年の間のそれぞれのグループの内部収益率(IRR)を比較すると、通常のベンチャー投資グループのIRRは8.1%であるのに対し、「インパクト投資」グループは6.9%という結果が出ました。調査を実施したGIINのCEOであるAmit Bouriはこの結果に対して「インパクト投資が通常のベンチャー投資に見劣らない金銭的リターンを出しつつ、社会と環境にインパクトを生み出していることに勇気付けられる」とコメントしています。
他にも、主な発見として以下が紹介されています;
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1998-2004年に立ち上がったファンドに限ると、インパクト投資ファンドの方が通常のベンチャー投資ファンドよりも高いIRRを出している。
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同時期に立ち上がった途上国向けのファンドでは、インパクト投資ファンドが通常の新興途上国向けファンドを大きく上回るIRRを出している。
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アフリカに特化したインパクト投資ファンドは、他の新興途上国を対象とし他インパクト投資ファンドよりも高いIRR(9.7% > 6.2%)を出している。
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運用総額が$100M以下のインパクト投資ファンドと、同サイズの通常のベンチャー投資ファンドのIRRを比較し他場合、2008-2010年を除き、インパクト投資ファンドがより高いIRRを出している。
個人的な感想ですが、こうした数値を出していくことで、よりメインストリームのお金の流れをインパクト投資に向けることができると考えます。結局儲かることが大事なのかよ、という声も聞かなくないですが、儲かる仕組みと融合していくことで、より大きなインパクトが生まれていくはずです。
一方、こうした研究の成果だけに目を向けると見落としがちなのは、「インパクト投資」という言葉の中にまとめられているアクター、目的、投資手法の多様性です。ハイリスクローリターンであってもインパクトを重視する寄付から発展したような投資家と、あくまで最低限のスクリーニングしか行わずマーケットレートに近いリターンを求める投資家、様々なアクターがインパクト投資家として混在していることを理解することも重要です。
いやいや、「インパクト投資」奥が深いですね。
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