SIB上陸で浮き彫りになる助成と投資の衝突【前編】待たれる金融機関の参画

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加速する社会的インパクト投資、日本の金融機関不在の訳

  近年、社会的インパクト投資を巡るニュースが世間を賑わしている。5月に東京証券取引所で行われた社会的インパクト投資シンポジウムには実に数百人が参加し、Forbes Japanは、「99%の人の投資が社会を変える」と題して大々的な特集記事を掲載した。
(参考URL: http://forbesjapan.com/magazines/detail/4)

  これまでの、ともすれば一部の”専門家”による閉じられたコミュニティになりがちだった「社会的インパクト投資」。2015年に入って黎明期の段階を脱皮して、多くの主要メディアやビジネスパーソンを惹きつけるホットトピックへと飛躍を遂げている。

 そんなムーブメントを牽引してきたG8社会的インパクト投資タスクフォース。不思議なのはこのムーブメントを牽引する顔ぶれの中に日本の大手金融機関が不在である事である。”投資”と銘打ったムーブメントが今まさに加速する中、なぜ日本の金融機関の出遅れが顕著であるのか?その背景を探ると、日本の”社会的インパクト投資”のマーケットが抱える課題が浮き彫りになる。

 

トーンダウンする日系証券会社の”インパクト投資”

 そもそも日本の金融機関においてインパクト投資はこの10年で様々な取り組みが行われてきた。ネガティブスクリーニングの動きに呼応したSRIファンドの相次ぐ組成。そして社会貢献型債券の残高の積み上げ。社会的責任投資フォーラムの調査によると、2015年3月末現在、投資信託は2,422億円、社会貢献型債券6,496億円。合わせて8,918億円に上る。
(参考URL: http://www.jsif.jp.net/#!data/c213l

 これらの動きを主導してきたのは大和証券である。日本で初めてのSRIファンドの組成( 2004年のダイワSRIファンド※すでに運用を終了)、大和マイクロファイナンスファンド(2011年)を初めとした投資信託や、ワクチン債、JICA債を初めとする社会貢献型債券のモデルの設計を担い、他金融機関でも同モデルを活用した商品組成が相次いだ。

 これらの動きを加速したのは社内で動きを主導したイントラプレナーの存在だった。証券会社の既存商品を活用した動きをもとに経営陣を説得して日本の証券会社のインパクト投資の原型作りを主導した取り組みはまさにここから始まったと言える。
(参考URL: http://www.tedxkyoto.com/events/tedxkyotochange/impact-investing-innovative-finance-for-development-satoru-yamamoto

リーマンショックとアベノミクスが与えたインパクト投資への影響

 この10年の金融マーケットを語る上で欠かせないリーマンショック、そしてアベノミクス。これらの2つの動きが、結果的にどちらもインパクト投資の動きを失速させる一大要因となった。2007年以降見舞われたサブプライムローン・リーマンショクに起因する深刻な危機に見舞われた金融業界。大手の存続にさえ誰もが疑念を抱き始める中、金融機関は相次いでコスト削減の為に商品企画部の廃止に踏み切る。直接的な収益を生まない商品企画部は一種の”コストセンター”と見なされ真っ先にリストラの対象となった。

 守りの経営が続く中、2012年。金融機関に待望のマーケット環境が訪れる。政権交代、そしてアベノミクスによってそれまでの株式取引の三倍以上の取引が日々行われた。手数料が跳ね上がる中で金融機関は息を吹き返した。経営陣は好マーケットに応じた既存ビジネスにて収益拡大を主導。結果的にインパクト投資の動きはますます息を潜めることになった。

 インパクト投資の動きは、既存の資本主義へのアンチテーゼとして提起されてきた。既存の金融・ビジネス環境の見直し、強烈な危機感の中でインパクト投資は新しい事業領域の獲得を見据えた動きとして歩みを進めてきた。久しぶりに訪れた好マーケットは、そのインパクト投資の動きにストップをかけることになったと言えるだろう。

Stock Exchange Market

Tokyo Stock Exchange by Stéfan @Flickr: https://flic.kr/p/5nduiR


10年先を行くアメリカ金融機関のインパクト投資の「勝負手」

 日本の金融機関が足踏みをする中、対照的に攻勢を強めているのが米系の金融機関だ。JPモルガンのレポートで火がついたインパクト投資熱だが、アメリカで最も注目を集めるNY市ライカー島のSIB案件において、その投資家となったのはゴールドマンサックスだった。その金額は実に10億円規模。ブルームバーグ財団の補填がある事を差し引いても余りあるチャレンジと言えるだろう。このゴールドマンサックスの取り組みは、日本のメディアも資本主義の雄の”変身”として多く取り上げた。
(参考URL: http://www.nikkei.com/article/DGKDZO50311080V00C13A1TY9000/

 しかしSIBを巡る案件ばかりが注目されるゴールドマンサックスだが、その経緯を紐解くと”地域”へのコミットに時間をかけて実践を重ねて行き着いた「勝負手」である事が分かる。2001年からゴールドマンサックスは実に4000億円を超える金額をアメリカの各地域の活性化に当てる取り組みを強めてきた。

 そして先日駆け巡ったゴールドマンサックスのImprint Capital買収のニュース。ESG投資の部署を有し、機関投資家・個人投資家のインパクト投資のポートフォリオ上のニーズを感じ取ったゴールドマンサックスは、Imprint Capitalが有するそのインパクト投資のデューデリジェンスのノウハウ、顧客基盤を買収するという経営判断に踏み切った。それは中長期でインパクト投資のマーケットを取りにいくという高らかな宣言に他ならないだろう。

 

ゴールドマン・サックスモデルからメリルリンチモデルへ

 SIBへの関与が注目されてきたゴールドマン・サックス。NYの案件はその打ち切りがニュースとなったが、その結果をポジティブに受け止め、引き続きコミットメントを続けるNews Releaseを発表している。

(参考URL: http://www.goldmansachs.com/media-relations/in-the-news/current/op-ed-2-jul-15.html

 さてゴールドマン・サックスばかりが注目されるSIBモデルだが、同じく米系金融機関のバンク・オブ・アメリカが出したレポートも高い注目を集めている。このレポートは、同行富裕層顧客の実に半数以上がポートフォリオに自身の社会的価値観を反映させたいと考えていることを明らかにした。そしてその傾向は若者ほど顕著であると言う。

 既存の富裕層投資家の相続において囲い込みに走らざるをえない金融機関。インパクト投資を打ち出す事がクールである、というブランディングが、既存の高齢投資家から子孫への相続において資産流出を防ぐ一手になると睨んでいる事が分かる。

 さらにメリルリンチは、SIBモデルにおいて既存の投資家を巻き込む新しい手法を持ち込んだ。ゴールドマン・サックスのSIBへの関与はローン。投資家から集めたわけではない。一方のメリルリンチはSIBの案件において、既存投資家の機関投資家・個人投資家、約40から15億円を集めた事を公表している。それが意味する所は、SIBをクライアントの投資家にとっての”新しい投資機会”として活用する事に他ならない。

 SIBは、金融商品としてはリスクの高いデリバティブ案件に該当する。そのためHP等での公募を行う事ができないため、既存投資家へのアプローチによってファンドレイズを行う。既存投資家の資産の元本毀損がクライアントの離反に直結する事を考えれば、メリルリンチはそのリスクを冒してでもSIBへの関与を優先したと言えるだろう。

(続)

インパクト投資を巡って、海外の動きに遅れをとる国内の金融機関。ブレイクスルーに向けて、いま何がもとめられているのか。後編はこちらから!

>>SIB上陸で浮き彫りになる助成と投資の衝突【後編】求められる金融機関のアントレプレナーシップ

この記事の執筆者

山口 洋一郎
Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。

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