- 2016-1-14
- 働き方
- コワーキングスペース, 地方創生
東京でコワーキングスペースがブームになったのは2011年。それから5年が経とうとしている。今、日本では地方都市や、はたまた都市でなくても市町村レベルで、「自分たちの街にコワーキングスペースがあったら」と考える人たちも増えてきた。かく言う筆者もつい先日、沖縄でコワーキングスペースを作りたい人たちに、自分たちが運営するスペースImpact HUB Tokyoを案内したばかりだ。
そうやって訪れるみなさんの話を聞いていると、近年の地方創生ブームに単に乗っかるのではなく、コワーキングスペースを、「人が集まって仕事をする場所」と言うよりも、「そこから何か新しいモノが生まれる場」としてデザインしていこうという意思が見え隠れする。
コワーキングスペースは、単なる仕事場ではない。そこは多様なバックグラウンドをもった人が行き交い、コーヒーを片手に団欒し、時に互いのアイデアを披露し合い、事業アイデアをぶつけ合い、「つねに新しい何かが生まれる」という可能性を秘めた場所だ。
しかし、残念なことにコワーキングスペースがもつ「つねに新しい何かが生まれる」可能性を最大限に活かすような運営ができているところは、まだ少ない。なかには電源やWiFi、ドリンクなどハード面を整えたは良いものの、運営者がコミュニティを創ってマネジメントしていくというソフト面に途方に暮れてしまうという問題も生じてきている。
そんな国内のコワーキングスペース運営を取り巻く状況に対して、今回はイギリスのコワーキングスペースでの取り組みを紹介した記事を紹介したい。1992年から今に至るまで、イギリスを拠点にコワーキングスペースを運営してきたThe Werksの事例をもとに得た「コワーキングスペース運営の為の6つのコツ」を紹介した記事である。
ベストな空間レイアウトとはどのようなものか、どうやってその場に集う人々を積極的にコミュニティに巻き込んでいくか、コミュニティのカルチャーをどのように育てていくか、といった運営のノウハウがギュッと詰まっている。
ぜひ、これから中山間地域、市町村レベル、地方都市でコワーキングを作ってみたいと思う人は、参考にしてほしい。
元記事URL:’6 Top Tips For Managing a Coworking Space’「コワーキングスペース運用の為の6つのコツ」
1.スペースに集うメンバーをきちんと選ぶことが大事
コワーキングスペースとは単なる物理的な場所というよりも、むしろ、そこに集う人々によって成り立つものだ。すなわち、そこに参加する人は皆、そのスペースのコンセプトにコミットしたり、スペースがもつ雰囲気に馴染むことが求められる。
「もし場の雰囲気に馴染むことが難しそうな人がいた場合、断ったほうがいい。コワーキングスペースを開設した当初、私たちは誰もいない広大な空間と、大きなリスクを背負っていました。当時の私たちの最も大切な仕事は、新しいメンバーと少しでも多くの時間を共に過ごし、お互いに少しずつ知り合うことでした。」とThe Werksを運営してきたJames McCarthyは言う。
「スペースが掲げる理想を理解し、受け入れてくれるメンバーを育てることは、コミュニティそのものが自ら成長していくことに繋がります。人々がドアを開けて最初にスペースに入ってきたとき、そこに満ちている雰囲気を感じ取って、自分がそこに合っていなければ、彼らは出ていきます。」
Impact HUB Tokyoでも、メンバーになりたいという方には一番初めに必ずOpen House(内見)に参加してもらい、このコミュニティのコンセプトやど集まっている人々について紹介し、スペースを実際に案内する時間を1時間程度設けている。このプロセスを踏むことが、自然とメンバーを選ぶことに繋がっている。
また、こうした基準を作るためには、自分たちの思想、ビジョン、理想をしっかり持つことも重要になる。それが揺らいでいると、揺らいだコミュニティになってしまうからだ。
記事の中でMcCarthyはこうも述べる。
「メンバーになった当初はとても信頼できるように思えた人が、程なくしてコミュニティ内のコラボレーションや、共有している価値の邪魔をし始めたことが何度かありました。もしそのような事態になったら、丁寧に彼らに出て行ってもらうよう伝えることを恐れてはいけません。」
運営者として、コミュニティに参加するはじめの段階だけでなく、その後も注意深く見守り、コミュニティ内の公平性が保たれているかどうかを常に確認し続けることも重要だ。
多様な人々が日々行き交う場所だけに、一律のルールを適用することは難しい。多くの出来事に対して、ケースバイケースで対応することが求められる。そんな中、他のメンバーとの公平性を注意深く鑑みて、必要な時には粘り強く説明したり交渉することも、スタッフに求められる非常に大事な仕事のひとつだ。
2.メンバーの偏りを無くし、多様性を保とう
ほとんどのコワーキングスペースは、紹介が紹介を呼ぶ口コミによる集客に頼らざるをえないが、このマーケティング方法は同じ業界や関係性の内輪や知り合いばかり集めてしまう可能性をもっている。この状況は、互いに似通ったバックグラウンドを持つ者にとっては、コラボレーションの機会を楽しむことが出来るかもしれないが、このスペースに集う多様な人々が交流し、意外性に満ちた新たなコラボレーションのきっかけを増やすことには繋がりにくい。
例えば、私が運営に関わっているコワーキングスペースでは、「ギーク性」は一つの重要な要素だ。メンバーそれぞれが、自らが専門とする領域にギークであること、そして、そのギーク性を持ち寄って多様性を担保することこそが、スペースの豊かなカルチャーを創ることに繋がるからだ。
なので、創設から3年近く経過し、各分野の起業家、デザイナー、エンジニア、マーケッター、映像クリエイター、ブランディング・コンサルタント、作曲家、翻訳家、セラピストなど非常に多様なメンバーが集う場となった。年齢層はファーストキャリアを終えた30代半ば以降のメンバーが多いが、それぞれに専門性を備えているので、誰に話を聞いても実体験を伴った非常に興味深い話に日々触れることが出来る。
3.他のコワーキングスペースの利用を薦めてみよう
また、意外かもしれないが、メンバーに他のコワーキングスペースの利用を薦めてみるのもよい、という。メンバーが新たな気持ちで仕事に取り組んだり、新しい関係性を築くことに役立つからだ。コミュニティ内の流動性を高めるほど、スペースには多くの人々が出入りするようになり、そのスペースがより刺激に満ちた面白い場所となる可能性も高まるのだ。
さらに流動性を高めることは、仲の良い者同士の小さなグループができることを防ぐことにも繋がる。似通った価値観で固まった集団から生まれる発想には限界がある。McCarthyも記事の中で、友人が近隣で別のコワーキングスペースを作った時、積極的に接点をもって流動性を生み出そうとしたと言う。
近くにそのようなコワーキングスペースが無いという場合は、一時的なコワーキングスペースを作り出すのもありだ。イギリスを拠点としたコワーキングスペース、Indycubeで働くBeth Charlesworthは、街中に1日限定のコワーキングスペースを創り、フレッシュな環境で他人と働くというコワーキングイベントを開催している。
「これまでかなりの数のコワーキングイベントを開催してきて、これからさらにこういった機会を街中に広げようと計画しているところです。今のところ、コワーキングの機会があるほど、より多くの人々が私たちのスペースにも訪れてくれるという結果が出ているようです。」とCharlesworthは語る。
メンバーの人々は、コワーキングスペースをライフスタイルに合わせて使っている。忙しい時期もあれば、アイデアを温める時期もある。それぞれのニーズに合わせて柔軟に使えるように、価格設定もデザインすることが重要なのだ。
たとえば、私たちのコワーキングスペースでは、スペース利用をしないけれども、コミュニティの一員でありたいというメンバー向けに、オンラインコミュニティのみに参加するメンバーシップを提供している。
これから数ヶ月海外出張だけど、帰ってきたらまた利用したいという人や、半年だけ別のコワーキングスペースを利用したいというメンバーのニーズに応えることで、コミュニティの流動性を保ち続けることができる。
4.交流が生まれるようにデザインされているか
コワーキングスペースを利用する主な理由のひとつが、普段の仕事では接点がないような、様々な業界・分野の人との出会いや交流、ネットワーキングの機会があるから、ということがあるだろう。それゆえに、スペースが他のメンバーとの出会いの場になるように、慎重にデザインする必要がある。
「相互交流が生まれることを念頭に置いて、スペースをデザインしよう。単にデスクを置くだけでなく、大きくて快適なソファを置いてリラックスできる空間を作ったり、プライベートなミーティング向けに利用できるミーティングルームも提供することが重要です。」と記事の中でCharlesworthは述べる。
スペースに充実した設備を資金を投下して整えることは簡単にできるが、それが適切なレイアウトになるとは限らない。各フロアーが区切られ閉ざされていては、交流は生まれない。
そこで鍵となるのがキッチンだ。フロアーの真ん中にキッチンを作り、メンバーがその周りを歩きまわる機会が生まれるようにデザインすることで、互いに顔を合わせる場を創りだすことができる。些細なことのように思えるが、そういった小さな工夫の一つひとつの積み重ねが、コワーキングスペースの運営では非常に重要となってくるのだ。
私自身もキッチンのカウンターで仕事するのは好きだ。丁寧にデザインした空間で、カウンターに座ってワインを傾けながら、仕事終わりに他のメンバーと情報交換するのが至福の時間。メンバーも、メンバー同士だけでなく、運営スタッフに近況を話す機会としてほしい。そうすると、スタッフ達はそんな小さな会話の中から、もっともっとコワーキング体験を向上させるヒントを見つけるからだ。
5.スペースがどのように使われているかを観察しよう
これからコワーキングを始めようという、あなたの頭のなかには、スペースに関する多くのアイデアが溢れていることだろう。いろいろなカタログや写真集、Pinterestから拝借したイメージが、夢のように膨らんでいるだろう。
しかし実際にスペースが使われるまで、そこに集うメンバーが果たしてどのようにスペースを使うか、またどんな更なる工夫が必要かということは誰にも分からない。大切なことは、スペースが実際に日々どのように使われているかを「観察」することだ。
私たちのスペースでは、ホストと呼ばれるスタッフが必ず常駐し、誰がどのようにスペースを使っているかを注意深く観察しながら、どうすればもっとスペースを良くすることが出来るのかを考えている。フリーコーヒーの置き場は、本当にここがベストか。ソファのレイアウトは、座った人の間に交流が生まれるように向かい合わせにしたほうがよいだろうか。観葉植物はどんなものを置くのがよいか等々。常に「観察」と「考察」が求められる。
記事中では、共有スペースでの電話利用を避ける為に、メンバーが電話する際に利用できるような場所にソファを配置したり、小さな部屋を割り当てるといったことで、他のメンバーにも配慮した対応が可能になるといった例も紹介されている。日頃からメンバーの導線に目を配って、意識を向ける注意深さが求められる。
6.コミュニティに積極的に参加してもらおう
スペースがより面白くなる秘訣は、一にも二にも、そこに集まる人々をどれだけ積極的に巻き込んでいけるかにかかっていると言える。仕事中のメンバーに声をかけるのはためらわれるかもしれないが、例えば、スペースに流している音楽を選んでもらう、といった小さなことでも十分始められる。
記事の中で紹介されているのは、メンバーにお気に入りのプレイリストをシェアしてもらって、それを流してみるという方法だ。その他にも、デスクに家族写真を飾ったり、自分専用のモニターを持ち込んでもらい、自分の居場所なのだと感じてもらおう。そういった些細な行動が、コミュニティへのメンバーの巻き込みに繋がるのだ。
Indycubeを運営するKev Mossはこんなアドバイスをしている。
「メンバーをどんどん巻き込んで、彼らにとって、ここが単に『来る』だけの場所で終わらせないことが大事。これは例えば、誰かに来る途中でコーヒーを買ってきてくれるよう頼むといった小さなことでも出来るんだ。」
これに似ているが、私たちのスペースではデロンギのエスプレッソマシーンを設置して、メンバーが自分の好きなコーヒー豆を持ってきて「自マメ」で淹れることが出来るように工夫している。また他のメンバーも、美味しいコーヒーを飲みたいときは、他のメンバーの「自マメ」にお金を払って、好きなコーヒー豆を選んで飲むことが出来るのだ。これはコーヒーにこだわりのあるワーカー達にはなかなか好評だ。
新しい何かが生まれる瞬間に立ち会う面白さこそが、コワーキングスペースの醍醐味
コワーキングスペースを運営することは、単にオフィスを経営することとは一線を画す。がらんとした何も無い空間に思想を宿し、共感する人々を集め、その人達と共に文化を育てていくことである。そしてより良い場作りのために、日々小さな試行錯誤を延々と繰り返していくことである。どうすればもっとこのコミュニティは良くなるか、面白くなるか、新しい出会いとコラボレーションが生まれるか。
さらに、そこに集う人々によって刻一刻と変化するコミュニティを、どのようにマネジメントしていくかは、それぞれの地域の特色や風土によって全く異なってくるものであり、常に独自性と発想力、観察力を求められる。だからこそ、これから地方にコワーキングスペースを作る人たちは、面白い仕事になるだろうと思う。
一朝一夕でうまくいくことではないし、人と人との関係性にダイレクトに関わる難しい仕事だ。だが、やはり運営する側として心ときめく嬉しい時間は、コミュニティに参加するメンバーが語ってくれる様々な分野の話を耳にしたり、新たなコラボレーションが生まれる瞬間に立ち会える時なのだ。
この醍醐味は、他に変えられない。逆に、この醍醐味を心から楽しめない人は、コワーキングの仕事には向いていないだろう。
コワーキングスペース運営の鍵は、地域性にある
これから特に地方で、コワーキングスペースを地域起こしの拠点として活用していこうとする人たちもいるだろう。コミュニティを創り、マネジメントしていくというのは、正直に言って大変なことだ。私たちもImpact HUBというヨーロッパで始まったものを、日本の文脈にローカライズしていくにあたり、多くの苦労と辛酸をなめた。
その土地で誰も知らない思想やコンセプトを、限られた言葉で説明し伝えていかなければならない時の、伝わらないもどかしさに嫌気が差すときもあるかもしれない。だが、最終的にわかったのは、その苦悩こそが「地域性」を再定義するプロセスだということ。避けては通れない、その地域がブレークスルーしていくために必要な道のりなのだ。
それでも、コミュニティから新しい出会いが生まれ、それが事業として結実した時に心に溢れる嬉しい思いこそが、やりがいを生み出し、続けていく為の背中を押してくれるのだと思う。そんな志を同じくする、地方のコワーキングスペースの運営者の方々の背中を、私たちも応援したい。
(https://flic.kr/p/vq9o8o)
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