社会に求められる会社になるにはーBコーポレーションを取得するまでの道のりが会社を変える

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 Bコーポレーション、またはB Corpについてはこれまで何度か記事にしてきたが、今回は自分の会社のBコーポレーション取得を目標に実際に動いている筆者が、その取得過程についてみなさんに赤裸々に打ち明けてみようと思う。そして、今後その過程を共にシェアできる人たちと繋がりたいと考えている。

 B Corp、Bコーポレーションって何、と思っている人から、Bコーポレーション取得を考えようと思い始めた人まで、様々な人に読んでいただきたい。また是非それらのコメント筆者のツイッターなどに送っていただきたい、と思う。

Bコーポレーションとは?が気になる人は、こちらの記事を参照:

「B Corpの本質とは何か?ベネフィット・コーポレーションの押させておきたい3つのポイント」

Bコーポレーション取得は何がメリットになるの?

 東京で起業家たちのコミュニティをコワーキングスペースとして運営している、私たちImpact HUB TokyoのメンターであるHUB Australiaが、2010年ごろ、早くもBコーポレーションを取得したのを知っていたので、かなり早い段階からBコーポレーションの存在には気づいていた。

 だが、私たちの会社の中で、最初にBコーポレーションの取得を強く主張したのは、今はもう辞めてしまったが、起業当初からいたチームメンバーの一人だった。彼は、Impact HUB San Franciscoの中に、Bコーポレーションのムーブメントを起こしてきた非営利団体B Labが入居していることや、修士論文でCSR(Corporate Social Responsibility)やCSV(Creating Shared Value)を書いてきたこともあって、「コンシャス・カンパニー」の潮流、つまり、社会や環境に配慮している会社がクールになってきている、というムーブメントに、並々ならぬ関心を抱いていた。

 しかしながら当時は、経営陣である私たちや他のチームメンバーはといえば、「確かにBコーポレーションを取得したら面白いんだろうけれど」と思いながらも、取得するメリットを感じられずにおり、重い腰を上げるには至らなかった。起業1〜2年目において、スタートアップとして食いつないでいくために、Bコーポレーション取得よりも優先してやるべきことがたくさんあったのだ。ましてや、仮に取得したとしても、その後は年間いくばくかの料金を支払う必要がある。その予算だってギリギリの中での経営だったのだ。

 彼はその後Bコーポレーションをベースとしたビジネスの展開を考えたが、うまく行かず、頓挫したままとなった。そして、その話は立ち消えてしまった。

チームの誇りとコミュニケーションが鍵

 だが、事業3年目にしてようやくチームが7名となった、弱小カンパニーの私たちも、チームのカルチャーを考えた上で、自分たちがプライドを持てる「何か」があると良いと考えるようになった。その頃から自分たちの信条と会社のブランディングを一致させるには、どうしたらいいだろうか、と考えるようになり、会社として発信していく内容や、コミュニケーションに慎重になっていく。

 その後、新しいチームメンバーも加わり、多様な人材やバックグラウンドを持つ人たちが増え、チームのカルチャーや価値観を定義付けすることが必要だと感じられるようになってきた。それを、内部にも外部にも分かりやすく示せるような、一つのシンボルの形で表現することも必要だと感じられた。その頃から、「もしかして、『Bコーポレーション』というものに有用性があるのでは?」とじわじわと実感するようになってきたのだ。

 また近年、たくさんのコワーキングスペースや、インキュベーション、起業家育成支援団体などが勃興してきており、私たちに似たような存在がたくさん生まれてきた。もちろん、それは喜ばしいことだ。だが、自分たちの思想の特徴をどのように伝えようか、と考えた時に、HUB Australiaがとった行動を思い出した。自分たちの言葉で一生懸命語るだけでなく、皆に分かりやすい言葉を借りることも重要ではないか、と思えてきたのだ。

 その頃からBコーポレーション取得のメリットが一気に浮上してきた。チームのカルチャー、チームのプライド、そして、顧客やファンとなってくれる人たちとの関係性。こういったものを考える余裕が出てきた際に、Bコーポレーションはとても良いコミュニケーションツールであると認識するに至ったのだ。

長いアセスメント過程で得られる多くの気付き

 Bコーポレーションを取得するには、「アセスメント(Assessment)」というプロセスを通らなければならない。これが非常に面倒臭い。

 「面倒臭いよー」というのは前々から聞いていたし、B Labの人たちからも脅され、「そう簡単には取得できないよ」とは言われていたのだが、確かに面倒臭い。何が面倒臭いって、本当に細かい質問だらけで、しかも痛いところを突いてくる。

 例えば、「オープン・ガバナンス」について。社員に会社のファイナンスは公開されているか、という質問があったとする。「あ、そういえば、先月会社の全ファイナンスをチーム全員でシェアする仕組みをで作ろうと思っていたんだった・・・」と、思い出す。そして、後回しになっていたそのプロジェクトを実施するに至る。

 こうやって「アセスメント」の過程で、自分たちが経営上やろうと思っていたことや、やりかけていたことを思い出し、経営に反映する作業を続けることになる。おかげで、この「アセスメント」を行い始めてから、加速度的にオープン・ガバナンスな会社になったが、まだ「アセスメント」が終わらない。

 例えば私たちの会社は「オープン・サラリー」というシステムがあり、6ヶ月に1度、チームメンバー全員でレビューをするのだが、全員がお互いの給与を把握しており、また、それは360度レビューをベースにして、とあるフォーミュラに入れると叩き出される数字になっている。

 こうしたプロセスもチームで相談しながら作ってきたものだが、こうした一つ一つが、自分たちの会社に誇りを持つプロセスになっている。

取得までのプロセスが、あなたの会社をコンシャス・カンパニーに導いていく

 B Labのサンフランシスコをベースにするベンジャミンと話した時に、彼が言っていた。「これはアセスメントのプロセスで、会社をコンシャスに変化させるための、エンゲージメントのツールなんだ。」

 私たちもまさにまんまとエンゲージメントされたのであり、そして、その過程を楽しんでいる。つまり、意識しないうちに、このプロセスの過程で「もっと自分たちの会社にできることがあるのでは?」と考えるようになってしまい、自分たちの会社のあり方や自分たちの会社の生み出すインパクトを長いこと考えるようになっているのだ。

 「あなたの組織のミッションステートメントはあるか?」という質問には、「それなりの日本語のものはあったけど、英語版はなかったな」と気付いたり、「ミッションステートメントはないけど、ビジョンはあるな」と気付いたりする。

 「あなたの組織のパートタイマーたちに、国が用意する公的な福利厚生を超えた、さらなる福利厚生は何が提供されているか?」という質問には、自分たちの会社が日本の公的福利厚生のレベルで満足し切っていたことに気付かされ、反省する。そして、もっと自分たちらしいクリエイティブな福利厚生のあり方を考え、実践し始める。

 盲目的にその質問に従うのではなく、何が自分たちらしい「コンシャス・カンパニー」へと導いてくれるかを考えるプロセスにもなる。経営者にとっては、本当に知的好奇心をかき立てる質問(そして、頭の痛い質問)が多々待ち受けているだろう。

チーム全員やステークホルダーが関わる形にしてしまおう

 私たちの会社では、このプロセスにチーム全員を招待した。チームはいつでもこのアセスメントを見れるようになった。私は、このプロセスにチーム全員が参画することで、より自分たちの会社へのプライドを確認できると思っている。

 また、これから私たちの会社が運営するImpact HUB Tokyoというコワーキングスペースにおけるコミュニティにおいても、このプロセスに興味がある人たちに関わってもらう形にしようと考えている。一人でも多くの人に「Bコーポレーション」の面白さを理解してもらい、もしかしたら一緒に「Bコーポレーション」を取得していくのも面白い。

 私たちはまだ「Bコーポレーション」を取得していない。だが、取得する前から、取得しようとトライしていることを明らかにするだけで、本当に面白い人たちとつながれることも分かった。その広がりだけでも、価値があるかもしれない。

決して簡単ではないところが味噌

 とはいえ、私たちもこのアセスメントの過程で、「本当に取得できるんだろうか」ということに不安がよぎる。なんせ、エネルギー消費量やCO2のトラッキングをしているか、というような、日本の大企業だってしていないようなことを要求している質問もあるからだ。そもそも基準が厳しい。

 だが、お金やリソースのない私たちにはお金がない私たちなりのエネルギーのモニターリングの仕方を考えることができる。または、電力会社を変えること、選ぶこと、燃料のあり方を考えなおせばいい。できないことなど、何もないのだ。

 同じように、「銀行はどう選んでいるか」と聞かれる。欧米には「コンシャスな銀行」が存在し、例えばトリオドス銀行のようなコミュニティに投資をしている銀行に預金することができる。だが、日本にはそういう銀行が少ない。(または、そういう銀行はオンライン取引などのサービスが整っていなくて使えなかったりする。)

 だが、この質問のおかげで本当に今の取引している銀行でいいのかを考えることができる。そして、例えば私たちは、日本のフェア・ファイナンス・ガイドのランキングを参考にした。

 こうして、一つ一つ細かく聞かれることで、自分たちが本当に様々な細かい場面に気配りをしながら、あらゆる面で「コンシャス」かどうかを確認できる。なので、最終的に取得できなくてもいいのだ。いずれにしても、まだアメリカの基準に沿った「Bコーポレーション認証」になっているため、日本の会社が取得できなくても仕方ないかもしれない。

日本での動きはどうなるか

 日本での動きについては、2015年後半から色々動き始めたのを感じている。先日、筆者は経済産業省に招聘され、「地域を支えるサービス事業主体のあり方に関する研究会」という場において、プレゼンテーションをしてきた。どうやら、経済産業省において新しい認証制度や法人制度を検討している様子で、その参考として招聘されたのだ。

個人的には、残念ながらこの動きはBコーポレーションのようなボトムアップの動きにはなりえないとは感じている。また、こうした認証制度の裏に隠れる副次的な意図として、データ収集とその分析の重要性を唱えてきたつもりだが、それについて実際にお上主導で行う施策の中で取り入れられるかはわからない。願うばかりだ。

こちらに筆者が行ったプレゼンテーションを掲載しておく:プレゼンテーションの資料はこちらを参照

 ただ、日本でBコーポレーションを作る動きは始まりそうだ。私たちの会社だけでなく、他にもImpact HUB Tokyoのコミュニティ内や、コミュニティ外のスタートアップ、チーム、組織や関心のある企業が、声をかけあい始めている。B Lab UKが発足するのに60社が必要だったと聞いているが、同じように日本でも「コンシャス・カンパニー」になりたい人たちがたくさん集まればB Lab Japanもできるはずだ。

 B Lab Japanができると何が起きるかというと、日本での地域的なルールや慣習を踏まえた「アセスメント」を作ることができるようになる。特に法人形態や会社法などが異なることもあり、こうしたローカルルールを日本の「コンシャス・カンパニー」たちが語りあうべきだろう。

「コンシャス」な経営者同士の知的交換が始まる

 私が個人的に最も期待しているのは、Bコーポレーションを取得した企業や組織同士の交流だ。なぜなら、日本という土壌や特殊な環境において、どうやって「コンシャス」を実践していくか、は多様だからだ。

 他の経営者がどんな「コンシャス」を実践しているかを知りたい。そして自分達もそれを盗んだり刺激を受けて、自分達の会社をもっと「コンシャス」にしたい。経営者による知的欲求とでもいうべきものだろうか。

 日本では2009年頃から「社会起業家」がもてはやされ、2011年の大震災を経てそのブームは高まった。だが、その時代は終わったと思う。これからは「社会起業家」が「いかに社会的な企業を持続させ拡大させ成長させるか」が重要であり、そして、「いかに全ての会社がそのような意識を持つようになるか」が語られるようになるのではないか。

 私は、「Bコーポレーション」が認証制度であるということよりも、上記のようなことに共感し、面白いと考える「コンシャス」な経営者やチーム、社員が集まって、語りあうことこそ、大きなうねりになるムーブメントの可能性を感じている。

(冒頭写真:Photo by Fortune Live Media

この記事の執筆者

槌屋 詩野Impact HUB Tokyo共同創業者Twitter:@shinokko
2012年よりインパクトを作り出す人たちの拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラムを設計、海外のプログラムのローカライゼーション・アドバイザー、企業の社内起業家育成スキームの設計、また、企業ベンチャーフィランソロピー分野で投資アドバイザーとして活動。

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