<SOCAP体験記>SOCAP、勝負の一週間を振り返る 〜帰国前夜編〜

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 SOCAPの舞台に溢れる「Give」の文化

 カンファレンス期間中は、毎日何十人という人との出会いがあります。自分の常識を覆す出来事が次々と起こり、自分の限界容量があっという間に一杯になる日々。そんな中で鮮烈に印象に残っているカンファレンス参加者達の姿勢があります。 それは只々純粋に相手に「Give」しようという姿勢。 たまたまセッションで隣に座っていた人。もう一生会う事はないかもしれない目の前の日本人の若者に対して費やす一秒一秒。その場で、その瞬間に目の前にいる人に何ができるか、どう手伝えるかを彼らは本気で考えていました。

 今でも覚えているその出来事は三日目の夜に起きました。 三日目に私は二人の参加者と話す機会がありました。一人はイギリスのSocial Stock ExchangeのCEO。社会的企業に特化した証券取引所は例が少なく、世界から注目を集める取り組みです。そしてもう一人は、Social Impact Bond(SIB)を手がけるSocial Financeのディレクター。

 行政と組んで地域密着の金融スキームを組むSIBは、社会的インパクト投資の次のブレイクスルーと言われる取り組みです。イギリスが政府主導でこの分野に力を注ぎ、世界展開を見据えていることが二人の姿勢から伝わって来ました。そして彼らと話すその時間に学ぶことは私にとってまさに目から鱗でした。

 そしてその日の夜のこと。 昼に私のアイデアをぶつけたその二人からメールが届いていました。内容はこうです。「まずこの人と話してみなさい。インパクト評価について理解を深めたいなら、日本ではこの人と話すべきだ。SIBについてもっと知りたいならこの人を紹介できる。スカイプで話してみたらどうか?」アポをとった私がお礼のメールをする間もなく届いたメール。どこまでも相手にGiveする姿勢。そしてそれが善だと信じて疑わない姿勢に大きく感銘を受けました。

 

Photo by Impact HUB Tokyo

仲間と過ごした時間から生まれた現状への問題意識

 私が参加した2013年のプログラムは総勢20名のチームでした。希望者は同じ宿舎に滞在し、毎日深夜まで語ってその日の出来事をお互いにシェアして振り返ります。

 一週間のSOCAPも終わりに近づき始めた夜。それとなく帰国後のアクションについての話になり、隣の部屋に滞在していた参加者のひとりから問いかけられました。「山口君はさあ、帰ってからどうするの?」 彼は近年注目を集める新興国で今まさに会社を立ち上げて起業しようとしていました。かれの問いかけに、私はこう答えます。 「そうですね、やっぱりインパクト投資の仕事をしたいですね。」 ボーっと間抜けな返答をした私に彼はこう聞き返しました。「それはキャリアプランの話だよね?本当のところ、どうしたいと思ってるの?」 何の答えも返せなかった私に、彼はある話を語り始めました。

 彼がSOCAPに来た目的は、立ち上げようとしている事業の手応えを確かめ、将来の投資家を探すためだった。だが法人設立の資本金を現地に送金しようとした時、その事件は起こった。 大手金融機関の担当者と話して海外送金の手続きを始めた彼。だが前例は皆無で、また新しい国でのビジネスであったことから、海外送金の手続きを受け入れてもらえなかったそうで、その時の銀行の担当者とのやりとりを彼は再現してくれました。

 「こっちは命をかけてこれからビジネスをまさに始めようとしてるんだ。もう三ヶ月も待って、何度もここに来てあなたと話している。それなのにあなたは銀行員として何のリスクもとろうとしない。あなたは目の前にいる人に対して、例外を盾にして理由も説明せずにただ拒んでいる。それでもあなたは本当に銀行員なのか?」

 そのやりとりを再現してくれた時、私はあまりの迫力に震え上がりました。その通りだ。私は言葉が出ませんでした。それは、もし私がその銀行員だったとしたら、同じ対応をしていただろうということが分かったからです。その話を終えて、彼は私にそれ以上のアドバイスはしませんでした。 しかし、私は考え直さざるを得ませんでした。自分が金融に携わる意味を。本当の意味で目の前の人の挑戦を後押しできる人になるために、できるかもしれない様々なことについてゼロから見直すことになりました。

 

Photo by Impact HUB Tokyo

 

SOCAPでかき乱された常識と、そこから確かに得た次なる一歩への手応え

 カンファレンス期間中、毎日本当によく考えました。そして日本の大企業のリーダーたちが、海外のパートナーと折衝を進める姿を見て感じました。当たり前に国境を、組織を、分野を超えて活動している世界を。新聞でただ叫ばれるだけの越境の掛け声ではない。それはすでに確かに始まっている世界でした。

 マイプロジェクトを持たない中で、私はひたすら考えました。金融のこれからのあるべき姿を。何度も常識をかき乱されました。自分が持っていた感覚が、いかに起業家の覚悟から離れたところにあったのかということに何度も気付かされました。

 日本に帰ってから自分はどうするのか、帰国の途途上でも、空港のカフェでも問いかけ続けました。 とても異世界に思えたSOCAPの世界。自分の持ち場に戻ってどうするか。はっきりとした答えはすぐには見出せませんでした。しかしたったの一週間でも、何か確かな水脈を探り当てたような感覚がそこにはあり、これから何年も自分を支えてくれるのだろうという確信がありました。そしてそれこそが今年、オーガナイザーとして再びSOCAPに向かう何よりの理由なのだと思います。

(完)

この記事の執筆者

山口 洋一郎
Impact HUB Tokyo Investor Relations担当。慶應義塾大学を卒業後、大和証券株式会社にて個人投資家向け営業を担当。2013年にはImpact HUB Tokyoを通じてSOCAPに参加。社会的投資の分野に深い関心を持ち、2014年には国際協力NPO/Acumenの大阪支部であるOsaka+Acumenの立ち上げを主導。2014年末に大和証券を退職後、2015年2月よりImpact HUB Tokyoに参画。SOCAP Japan Teamプロジェクトをリードしている。

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